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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (11)

  • 恋愛より特別なこと - 傘をひらいて、空を

    わたしが一緒に住んでいる女は恋人ではない。 でもない。であればラクだとは思う。お互いのオフィシャルな緊急連絡先になって、どちらかが入院したらもう片方も病室に入れて、先に死んだほうの遺産が残ったほうに自動で行く。いいなあ、めちゃくちゃラクそう。 でもわたしたちは結婚することはできない。わたしたちはどちらも女である。 わたしたちは互いの稼ぎを持ち寄り、住居の確保から家事の分担まで二人で意思決定し、生活をともにしている。相手がいなくなったら生活を立て直さなくてはいけない。そういう相手を何と呼ぶのかと、同居人でない別の友人に訊いたら、パートナーじゃん、との回答が返ってきた。 わたしは反論する。いやそれは籍を入れてないカップルの呼び方でしょ。わたしたち恋愛してないから。する予定もないから。 そもそも恋愛や性愛がパートナーシップにくっついてくるのが、変だと思うんだよねえ。友人はそのように言う。相互

    恋愛より特別なこと - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2023/11/07
  • バグ対応にストーリー - 傘をひらいて、空を

    何かから逃げている。何かはわからない。でも逃げている。そのような感覚をずっと持っている。物心ついてからずっとある気がするけれど、強くなったのは高校生のころだった。そのころから、「逃げている」という感覚にとらわれると生活できないとわかっていた。だって、何から逃げているのかわからないのだ。 思春期だからな、とそのときは思っていた。世間でも思春期は不安定だということになっているし、ものを読むかぎり、ほぼ病気みたいな感じなので、自分の焦燥感も思春期のせいだろうと思っていた。授業を受けていても誰かといても楽しくしていても寝てもさめてもわたしはつらく、そこから目をそむけることが活動のエネルギーだった。授業に集中しないと、人との会話に集中しないと、「あれ」にとらわれてしまう。 一度だけ母に言ってみたことがある。お母さん、お母さんが高校生のころってどうだった、すごく苦しい焦りみたいなのなかった。地獄のよう

    バグ対応にストーリー - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2018/09/11
    良い。喉の奥に固まりがあって、でもどうしようもない時は目を逸らしたって良いのだ、全て解決出来なくったって良いのだ。
  • 健全な孤独死のための覚え書き - 傘をひらいて、空を

    あのさあ、わたし孤独死しようと思って、あんたも一緒にどう? 何それ、孤独死ってしようと思ってすることなの、しかも一緒にって何よ、私みたくひとりじゃなくて、家族がいるのに、子ども二人いるのに。わかってないなあ、だから孤独死を志すんですよ、健全な孤独死を。わかんない、ぜんぜんわかんない。 だってわたし、子どもが成人したら同居なんかしたくないもん、わたしの可愛い息子たちは世界に旅立ってほしいし、世界じゃなくても、まあ日でいいんですけど、東京から出なくてもべつにかまわないけど、自分の好きな場所で好きなように生活してほしい、老いた親が心配だから一緒に住むとかやめてほしい、まじで。 それはまあ、そうかもねえ、親との同居ってそういえば、どうしてみんな、するのかねえ、考えたことなかったわ。さあ、同居する人にはする人の考えがあるんでしょ、わたしはそういう考えかたをしない、それだけなんだけど、とにかく、わた

    健全な孤独死のための覚え書き - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2018/02/06
    私もあと40年くらい生きたいかな。そして終わりはポットにでも伝えて貰えばいいや。かあさん最近お茶飲まない、的な。
  • 基地に戻る - 傘をひらいて、空を

    人が規範を学ぶときにはその境界を目撃しようとする。規範はたいてい暗黙の了解をふくみ、あるいは抽象的にしか言語化されておらず、ときに建前という名の嘘をふくむ。したがって規範の学習には実践が不可欠である。そんなわけでこの二歳児はローテーブルによじのぼっている。テーブルには何も置いていないから問答無用で引きずりおろしはしないが、もちろん、彼は降りるべきである。 私は彼の名を呼ぶ。強めの口調で「降りよう」と言う。彼はちらと私を見て笑い、テーブルの上で新しいポーズをとる。やってはいけないとわかっていてやるのである。悪い笑顔だなあ、と思う。悪そうな顔もとてもかわいいが、かわいがっている場合ではない。私は子守として規範を遂行しなければならない。すみやかに彼を抱えてテーブルからおろす。 彼はもちろん泣く。そしてローテーブルに再度よじ登ろうとする。彼は二歳にして主語述語のある文章を口にするが、こうなると言語

    基地に戻る - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2018/01/23
    基地に戻る、いいな。私の基地はどこだろう?知らないうちに膝を抱えているのかも。
  • マイノリティに科せられる罰金 - 傘をひらいて、空を

    マニュアルも前例も上長もあてにならないトラブルが生じたので先輩を訪ねた。先輩はわたしの切り札である。わたしより十ばかり年長の女性で、とても頭の切れるひとだ。無駄口をきかず無愛想でとっつきにくく、同じ部署の人によると、誰が居残っていても自分の仕事が終わればさっさと帰るのだという。話すとおもしろいし、実は親切で、わたしは好きだった。 先輩からインフォーマルな情報を仕入れ、わたしの考えを聞いてもらい、最終的な判断は保留にして(先輩はわたしが自分で判断することを好む)、それからわたしはお礼を言う。こうやって助けていただくのって一年ぶりくらいでしたっけ。いつもありがとうございます。わたし、初の女性管理職という名目でいろいろ押しつけられちゃってるんですよ。ほんとうなら先輩が先にそうなってるはずなのに、さては先輩、断りましたね、わたしくらいのときに。 断っちゃいないわよ。先輩はにこりともしないまま答える

    マイノリティに科せられる罰金 - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2017/12/20
    いつも笑顔でいられない事に罪悪感を感じてしまう。でもその罪悪感は何処から来るのだろう?
  • ミイラ取りの田中さん - 傘をひらいて、空を

    彼に対して田中さんという呼称を使用する人はいない。田中さんは複数いて、彼はもっとも新しく来た人だからだ。下の名前と同じ読みの人もすでにいる。そんなだから、座席表は「田中(浩)」、近しい同僚からの呼び名は「ミーさん」で落ち着いた。ミはミイラのミである。 田中さんは中途採用、今年度で三年目に入った。というのは表向きのことで、ほんとうは中途ではない。田中さんは採用時二十八歳で、学校を出たばかりだった。履歴書を読むと大学院博士課程満期退学、と書いてある。新卒じゃん、と私の上長は言い、そうですね、と私はこたえた。けれども、私たちの会社では新卒というのはどうやら二十代前半までで、だから田中さんは新卒扱いにしたくないらしいのだった。そんなのどこにも書いてないじゃん、と上長は言い、書いてないですねと私はこたえた。 採用チームは人事担当ならびに採用対象の所属する予定の部署で組む。私は採用チームで年齢がいちば

    ミイラ取りの田中さん - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2017/07/25
    かわいいし素敵な人。このぐらいのスタンスでいいの、ミイラより饒舌で優しい!くらいの気持ちで働きたい。
  • 私の職場の亡霊の話 - 傘をひらいて、空を

    帰ったふりしてオフィスにいちゃだめ。仕事の持ち帰りも禁止。社外でのメールチェックも控えるように。あと有給、最低でも三割は消化して。言うこと聞いてくれないと、僕、泣いちゃう。 上長がそう言った。私が言われたのではない。私は頼まれなくても有給休暇の消化率がきわめて高い。必要なら徹夜もするけど、必要なければ定時で帰る。明日やれることは明日やりゃあいいと思っている。忙しくなれば行き帰りの電車でも業務メールを読むけれど、それすら不承不承だ。通勤中には仕事の役に立たない小説とかを読むのが正常だと思っている。業務上ほんとうに時間外の対応が必要なら携帯電話が鳴る。滅多に鳴らないけれども、鳴ったら対処すればいいので、自分から時間外に何かをする必要はない。そう思っている。 私の職場と立場では、私のような働きかたはやや極端だけれど、むちゃくちゃではない。みんなそれなりに休みながら働いている。けれども、ただひとり

    私の職場の亡霊の話 - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2016/12/06
    『人間が人生を置き去りにする方法』に衝撃を受けてブコメを開いたらもう誰かに届いてた。こんな風に書き記したくなる言葉って、すごい。
  • 大人になれば世界は - 傘をひらいて、空を

    目を閉じて、ひらいて、そうして同じものが見えることを、いつも不思議に思っていた。世界がなくなっていない。それはとてもおかしなことであるように思われた。私にとって世界は、またたきのあいだに反転していてもおかしくはないような、あやういものだった。目の前の世界はあまりにあやうく、に書かれたお話は紙の中に区切られているから安全に感じられた。それだから私は世界から隠れるように、暗いところで字ばかり読んでいた。 高校生にもなるとしかたなく「世界は明日も同じようにある」と仮定して行動するようになった。そういう素振りをしないと不快なことや不便なことが多すぎるからだ。私は一晩寝て起きたあとにも物理法則が変化しないと確信しているふりをした。私は自分のことばが人に通じていると思い込んでいるふりをした。それらはあくまで芝居だった。いくら芝居をしてもほんとうにはならない。芝居が上手くなるだけだ。 将来なりたいもの

    大人になれば世界は - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2016/10/04
    また会いましょう。不確かな世界の中で。
  • 三十代の余生 - 傘をひらいて、空を

    交通事故に遭った。乗っていた車が凍った高速道路でスリップした。前後左右に大型のトラックが走っていた。制御をうしなった自動車の動きを後部座席から見た。その数秒のあいだ、運転手は前後左右をみてより助かる確率が高い方向にハンドルを切っていたのに、その他の席の二名も(あとから聞いたら)助かる方法をそれぞれが必死に考えていたのに、わたしは、ああ、楽しかったな、と思った。楽しかったな。そのほかにはなにも考えなかった。 もちろん、わたしたちは生き延びた。全員が無傷にみえた(のちに一人だけが軽傷を負っていて、残りび三人は放っておけば消えてしまう痣だけですんだとわかった)。わたしたちはひとまずの安全を確保し、たがいのからだに軽く触れて身の安全をたしかめた。わたしたちは生きていた。わたしももちろん、生きていた。それだから、みんなと手分けをして事故の処理をした。他の車を巻き込むことがなくてよかったと思った。それ

    三十代の余生 - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2016/04/09
    余生でもいいよ、が好き。こういう風に感じることは時々あります。
  • あたりまえの朝の通勤 - 傘をひらいて、空を

    電車の席に座っている。隣の男が頭を強く掻く。視界の端にこまかい何かが落ちてくる。私は身を縮める。できるだけ満員電車に乗らない人生を選んできたけれど、ときには他者の都合に合わせなければならない。目の前には人が詰まっている。立錐の余地をぎりぎり確保して、各自バランスをとっている。電車が揺れ、立った錐の群れがよろめく。私は身を縮める。 隣の男は頭の全面を掻き終えたのか、右手で首筋を、左手で袖を捲った右腕を掻きはじめる。視界の端にそれが映る。奇妙に秩序だった動作だ。余すところなく全面を順繰りに掻いているかのようだ。もちろん私はその男が真に全面を掻いているか確認してはいない。確認したらたぶん吐き気に耐えることができない。けれども反対側の隣に顔を向けることもできない。そこにはこぼれ落ちそうな目を見開き(眼球が球であることがはっきりとわかる)、その眼の周囲を黒くかこみ、ひとつの塊のように厚い睫毛をばさり

    あたりまえの朝の通勤 - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2016/04/03
    凄い。粉がこちらまで飛んできそう。あたりまえの地獄絵図。
  • アムステルダムの彫金師の一族 - 傘をひらいて、空を

    友人が何人か集まったときの話題のうち、仕事のそれに関する比率が高まっている。学生時代からの友人で、職場どころか職種もばらばらであるにもかかわらずだ。私たちもすっかり中年だなあと思う。中年はなにかというと仕事の話をし、健康診断の結果や持病の話をし、後者はどんどん深刻になり、気がついたら定年間際になっているのだろうと、なんとなく想像している。もしかすると世のなかには中年になってめっきり文学の話が増えたというような人もあるかもしれないけれども。 長時間残業をしろというのではないの、と一人が言う。ただただ、定時内に終わる量を、しっかり片づけてほしいだけなの。楽をしよう、手抜きをしよう、できるだけ自分に何かの役割がやってこないようにしよう、という姿勢があまりに露骨だと、上司としてはどうしていいかわからなくなっちゃう。もちろん都度注意はしてるんだけど、糠に釘だし、そもそもそういう子をうまく扱えない私に

    アムステルダムの彫金師の一族 - 傘をひらいて、空を
    yutoma233
    yutoma233 2016/04/03
    仕事との良き関係。自分の才能を生かした理想の仕事に就ける人は羨ましい。でもたまたま巡り合った仕事に自分の居場所を見つけられる人はもっと素晴らしい。私も一族で在りたい。
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