2012.06.21 書評 青山文平という可能性……… 『白樫の樹の下で』から『かけおちる』へ 文: 島内 景二 『かけおちる』 (青山文平 著) 青山文平は、遅れてきた麒麟児である。この60歳を超えた新人は、自ら考案し改良を重ねた文体を引っ提げて、時代小説の門を敲(たた)いた。贅肉を削ぎ落とし、引き締まり、無限の余情に富む文体は比類がない。彼はどんな心境で、秘剣にも似た、斬れ味抜群の筆を振るうのか。そして、彼が斬らねばならない敵は、誰なのか。 デビュー作は、平成23年に第18回松本清張賞を受賞した『白樫の樹の下で』。第1作らしい清新さと、第1作とはとても思えない手練(てだ)れの表現力とが、見事に調和していた。読者は、新しい時代小説の扉が開かれたことを喜んだ。 さもあろう。青山文平とは、平成4年に、第18回の中央公論新人賞を受賞し、選考委員の吉行淳之介を唸らせた影山雄作の第2の名前なのだ。