米国・サンフランシスコは、ゴールデンブリッジやチャイナタウン、ケーブルカーで日本人には馴染みのある観光地だが、最近は治安の悪化が盛んに報道されている。そこで、年末から年始にかけて現地を踏査してみた。 ダウンタウンでは、明らかに治安が悪くて足を踏み入れないほうがよいと思われる通りと、市民や観光客が普通に行きかっている通りとに分かれる。市内周辺部では、良好に管理運営されている地域もある。通りや地域によって明暗が分かれるのはなぜだろうか。 高いオフィス空床率と物価 サンフランシスコに行くと誰でも最初に訪れるのがダウンタウンにあるケーブルカーの出発点だろう。ここは今日でも世界各地からの観光客であふれ、明るく華やかな雰囲気である。 しかしその近くではデパートやフーズマーケットが閉店し、シャッターが閉められている。ちらほらと開店している店もあるが、閉店した小売店も多い。 シリコンバレー銀行の倒産はあっ
気鋭の歴史学者として活躍し、当コーナーにも2度登場していただいた與那覇潤氏。しかし、2015年に双極性障害Ⅱ型(軽躁の状態とうつ状態を繰り返す病)で入院。後に、勤めていた大学を辞め、歴史学者を廃業するとも公表した。一時は著しい能力の低下により、本を読むことさえ困難になったが、回復後に出版したのが『知性は死なない 平成の鬱をこえて』 (文藝春秋)だ。病気を通じて世の中を見る目が変わったという與那覇氏が、平成の日本を席巻した反知性主義について語ってくれた。 ――世界的に見ても、平成の日本を見ても、反知性主義が跋扈していると度々指摘されます。平成日本の反知性主義について、どう捉えていますか? 與那覇:病気をする直前の2014年に、精神科医の斎藤環さんと対談させていただいたことがあります。当時はヤンキー文化論が流行っており、大雑把には「ヤンキーは身体感覚、つまり直感的な情動だけで動く人たちだから、
多くの国で新型コロナの流行は昨年中にほぼ落ち着き、マスクをはじめとする規制の緩和が続いた。ところが日本だけは大きな7波と8波に襲われて規制が続き、今年に入ってやっと流行のピークを過ぎて、3月からマスク着用は個人の判断に委ねられた。また新型コロナの感染症法上の位置づけが5月から季節性インフルエンザと同じ5類に移行し、すべての規制が解除された。 そこで関心が集まっているのが、マスク着用をどうするのかだ。日本は法律で強制しなかったにもかかわらず、マスク着用率は極めて高い。その理由は、学校給食で生徒にマスクをつけさせたことがマスクに対する違和感をなくしたためという説がある。 そのような土台の上に、流行発生以来マスク着用が急激に増えたのは、政府と専門家による〝誘導〟の結果だ。ワクチンが開発されるまでの感染防止対策は緊急事態宣言しかなかった。そこで国民に外出自粛、三密回避、マスク着用などの個人対策をお
「中国共産党は私たちの声を聞いて目を覚ましてくれる。今の政策を変えてくれるはずだ」 中国共産党による「ゼロコロナ」政策を批判する抗議運動、いわゆる「白紙革命」の集会が11月30日夜、新宿駅南口で開催された。「習近平下台!共産党下台!」(習近平辞めろ!打倒共産党!)とのシュプレヒコールが上がるなか、意外な言葉を聞いた。他にも、「香港独立や打倒中国共産党なんて言われると近寄れない。追悼のために来たのに、一緒にされたくない」とぼやく人も少なくなかった。 集会にはざっと見て数百人が参加したと思われるが、中央部ではステージに上がった演者のかけ声に合わせてシュプレヒコールが繰り返されていた。その後ろには香港独立旗や「自由か死か」と書かれた横断幕などが掲げられていた。 一方で、その両脇には新疆ウイグル自治区で起こった集団住宅火災の犠牲者を追悼するLEDろうそくと献花が並んだ祭壇があり、静かに祈る人の姿も
32年ぶりに1ドル150円を突破した。急速な円安が進み、米国と日本の金利差の拡大に注目が集まっている。この理由は、いわゆる「金利平価説」を利用すれば、円安の進行を簡単に説明できるためだろう。 しかしながら、現在の円安は、本当に米国と日本の金利差の拡大のみの影響なのか。この論考の前半では、金利平価説のメカニズムを概説し、後半では、テレビや新聞が見落としている視点として、構造的な貿易赤字の問題を取り上げたい。 まず、円安と金利平価説の関係である。金利平価説とは、「どの通貨で資産を保有しても収益率が同じになるように為替レートが決定されるとする説」をいう。 金利裁定取引の条件から、①日本の金利が変化せず、米国の金利が上昇すれば、円安が進むことや、②米国や日本の金利が変化せずとも、将来における円安期待が高まると、円安が進むこと、等を示すことができる。このうち、②は、円安の自己実現的な期待とも関係する
10月11日から12月下旬までで、観光庁の「全国旅行支援」が始まった。全国旅行支援は割引率40%、割引上限額は交通付旅行商品(鉄道、バスなどのサービスが付いているもの)は一泊当たり8000円、付いていない場合は5000円である。さらに、平日3000円、休日1000円のクーポン券が付く。 仕組みとしては、ホテルなどの観光事業者が都道府県に申請・登録を行い、事業者は割り引いた額の価格で販売し、割引分を、都道府県を通じて国から受け取るというものだ。クーポン券は、旅行会社やホテルが利用者に直接渡すという。 ところが、「支援」の分だけ便乗値上げが横行しているのではないかという声がSNSで盛り上がっている。「全国旅行支援前に予約したホテルが1.8万円だったのに、全国旅行支援が復活したから取り直そうとしたら、同じホテル同じ部屋が今だと3.2万円になっている。全国旅行支援使った方が高いってどういうこと?」
先ごろ亡くなったイタリアの作家、ウンベルト・エーコは記号論を駆使した小説『薔薇の名前』で名をはせた人だが、政治評論でも予言的な面白い作品を残している。今回は邦訳もある『永遠のファシズム』(岩波書店、和田和彦氏訳)のエーコの言葉から、日本の現在を考えてみたい。 ファシズムとは、<一枚岩のイデオロギーではなく、むしろ多様な政治・哲学思想のコラージュであり、矛盾の集合体>だ。 イタリアで始まったムッソリーニのファシスト党という名から、ファシズムは全体主義を指す言葉とみられてはいるが、「イズム」と呼べそうな明確な主義主張も、それを突き動かす存在もないと、エーコは言い切っている。要はコンピューターのCPUのように、それを壊せばすべてが崩れる中央制御がない。 ファシズムとは、まるで脳のように、膨大な数の細胞が複雑につながり一つのネットワークを築いており、すべてを統括する部位はない。私にはそう読み取れる
スタジオ・ジブリのアニメ映画『風の谷のナウシカ』は世界のアニメ史上に残る傑作として知られる。核戦争によって文明が滅びてから1000年後の世界を描いたこの作品には「巨神兵」と呼ばれる旧文明の巨大人型兵器が登場し、凄まじい破壊力を発揮するものの、最終的には怒れる王蟲の群れに蹂躙されてしまう。 しかし、このアニメの原作となったコミック版『風の谷のナウシカ』では、「巨神兵」の描かれ方がかなり異なる。「オーマ」の名を持つ「巨神兵」は、実は「調停者」であり、その巨大な破壊力によって大国間の戦争を抑止する役割を旧文明世界に負っていたことが明らかになっていくのである。 ここで「調停者」について触れたのは、中東におけるロシアの役割とその限界を考える上で有用であるように思われたためだ。本稿の前編『イスラエルとイランの間で板挟みになるロシア』で触れたように、シリアを舞台としたイランとイスラエルの対立が激化するな
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