アンドレ・バザンの映画批評はわかりにくい。しばしば、バザンの議論の論旨は不明瞭であり、分析の俎上に乗せる映画を綺麗に裁断するような爽快感はなく、むしろ、バザンが対象とどのように接しているのかすら把握しにくいようなことすら少なくない。 その一方で、例えば『映画とは何か』の冒頭に収録された、バザンの代表的な評論の一つである「写真映像の存在論」は、人口に膾炙している要約によると、極めて素朴なリアリズムを肯定するものであるとされている。写真および映画が多くの芸術と異なるのは、現実に存在する事物からの転写を含むという、存在論的な側面を持つからなのであり、このような議論から、編集を排除し長回しで撮影されたシークェンス・ショットを重視するというバザンの美学的立場も導かれる、ということになっている。 ……しかし、バザンが論じているのがそれほど単純なことに過ぎないのであれば、なぜ「写真映像の存在論」は、あれ