私はずっと小さな頃から、本が好きだった。小説やエッセイといった読み物に限らず、活字全般が好きで、辞書や教科書を眺めているだけでも楽しかった。けれど私の家は、あまり裕福ではなく、本を買う余裕もなければ、電車に乗って大きな図書館に行くこともできなかった。学校の図書館は、子供向けの作品ばかりで、人一倍読むのが早かった私は、すぐに読みきってしまい、飽きてしまった。 あるとき浜辺に座って海を見ていたら、水平線の向こうから大きな船がやってきた。船は砂浜に半ば乗り上げるようにして止まった。見上げれば、女の人が立っていて「海上移動図書館《ピースメーカ》の館長です、乗ってみますか?」と大声で言い、私に向けて縄梯子を放りなげた。 船の中は私にとって天国だった。世界中の書物という書物が、その船には揃っていた。館長さん曰く「僭越ながら申しあげますと、当館に所蔵されていない書物を、私は見たことがありません」とのこと