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掃除・片付け
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2021年1月31日の埼玉県戸田市の市議会議員選挙(定数26)において、2020年の都知事選でもそのパフォーマンスが話題なったスーパークレイジー君こと西本誠氏が25番目の912票の得票で初当選しました(政治家としてもスーパークレイジー君として活動するとのことなので、以下もスーパークレイジー君で)。 都知事選では「百合子か、俺か」のキャッチフレーズやそのパフォーマンスからイロモノ候補かと思っていたのですが、政見放送を見たら非常に真面目な主張をしていて驚いた記憶があります。 今回の当選を受けて、マスコミでも話題を集めていますが、今回のスーパークレイジー君の当選には「驚いた」「ウケる」といった要素だけではなく、日本の選挙や民主主義を考える上での重要な問題が含まれていると考えるので、以下、2つの面から考えてみたいと思います。 1. 日本の地方議会の選挙制度の問題 今回の戸田市議会議員選挙の結果は以
「民主主義」の反対となる政治体制というと「独裁」が思い浮かびますが、近年の世界では金正恩の北朝鮮のようなわかりやすい「独裁」は少なくなっています。 多くの国で選挙が行われており、一応、政権交代の可能性があるかのように思えますが、実際は政権交代の可能性はほぼ潰されているような体制の国がけっこうあります。 独裁からこういった選挙があるけど政権交代の可能性がほぼない国までひっくるめて政治学では「権威主義」、「権威主義体制」と言い、近年では今井真士『権威主義体制と政治制度』、エリカ・フランツ『権威主義』のように権威主義を分析した本や、川中豪『競争と秩序』のように民主主義と権威主義の狭間で動くような国(東南アジアの国々)を分析した本も出ています。 こうした中で本書は権威主義体制の戦略、特に権威主義体制における選挙の利用について分析した本になります。 権威主義体制に選挙は必要ないような気もしますが、先
ある制度が良いのか悪いのかというのはなかなか難しく、簡単には判断を下せないケースが多いのです。例えば、選挙制度は小選挙区制がいいのか比例代表制がいいのか、日本型の雇用制度が良いのか悪いのか、といったことは一概には判断を下せないと思っています。 そんな中でも、個人的に明確に「悪い制度だ」と考えているのが、外国人の技能実習制度と、本書のテーマである非正規公務員の問題を含む地方公務員の人事をめぐる制度で、特に後者は新卒に重い価値を日本の就職市場のあり方や、男女の格差の問題の解決にもつながっていく非常に重要な問題だと思っています。 本書は、そんな非正規公務員の問題を扱った本であり、2012年に出版された同じ著者による『非正規公務員』の問題意識を受け継ぐ本です(未読ですが2015年に『非正規公務員の現在』という本が出版されている)。 非正規公務員の低待遇と不安定な身分を告発するとともに、この問題を改
ここ最近話題になっている「右傾化」の問題。「誰が右傾化しているのか?」「本当に右傾化しているのか?」など、さまざまな疑問も浮かびますが、本書はそういった疑問にさまざまな角度からアプローチしています。 実は、国民意識に関しては特に「右傾化」という現象は見られないが、自民党は以前より「右傾化」しているというのが、本書の1つの指摘でもあるのですが、そのためか、執筆者に菅原琢、中北浩爾、砂原庸介といった政治学者を多く迎えているのが本書の特徴で、編者は2人とも社会学者であるものの、社会学からの視点にとどまらない立体的な内容になっていると思います。 目次は以下の通り。 総 説 「右傾化」ではなく「左が欠けた分極化」 小熊英二 第I部 意 識 1 世論 世論は「右傾化」したのか 松谷満 2 歴史的変遷 「保守化」の昭和史――政治状況の責任を負わされる有権者 菅原琢 第Ⅱ部 メディア・組織・思想 1
本書を「『21世紀の資本』がベストセラーになったピケティが、現代の格差の問題とそれに対する処方箋を示した本」という形で理解している人もいるかもしれません。 それは決して間違いではないのですが、本書は、そのために人類社会で普遍的に見られる聖職者、貴族、平民の「三層社会」から説き始め、ヨーロッパだけではなく中国やインド、そしてイランやブラジルの歴史もとり上げるという壮大さで、参考文献とかも入れると1000ページを超えるボリュームになっています。 ここまでくるとなかなか通読することは難しいわけですが(自分も通勤時に持ち運べないので自宅のみで読んで3ヶ月近くかかった)、それでも読み通す価値のある1冊です。 本書で打ち出された有名な概念に「バラモン左翼」という、左派政党を支持し、そこに影響を与えている高学歴者を指し示すものがあるのですが、なぜそれが「バラモン」なのか? そして、本書のタイトルに「イデ
新型コロナウイルスの感染拡大の中で、まさに本書のタイトルとなっている「公衆衛生の倫理学」が問われました。外出禁止やマスクの着用強制は正当化できるのか? 感染対策のためにどこまでプライバシーを把握・公開していいのか? など、さまざまな問題が浮上しました。 そういった意味で本書はまさにホットなトピックを扱っているわけですが、本書の特徴は、この問題に対して、思想系の本だと必ずとり上げるであろうフーコーの「生権力」の概念を使わずに(最後に使わなかった理由も書いてある)、経済学、政治哲学よりの立場からアプローチしている点です。 そのため、何か大きなキーワードを持ち出すのではなく、個別の問題について具体的に検討しながらそこに潜む倫理的な問題を取り出すという形で議論が展開しています。 そして、その議論の過程が明解でわかりやすいのが本書の良い点になります。 「これが答えだ!」的な話はありませんが、問題点が
岸田内閣が成立し、衆議院の総選挙が10月31日に決まりました。政治好きとしては「総選挙」と聞くだけでなんとなく盛り上がってしまうのですが、ここ数回の国政選挙に関してはその結果に不満を持っている野党支持者、あるいは無党派の人も少なくないと思います。 「なぜ自民が勝ってしまうのか?」、「毎回野党に勝ち目がなさそうなのはなぜなのか?」と思う人もいるでしょうが、その理由を何冊かの本と考えてみたいというのがこのエントリーの狙いです。 まず、出発点となるのは谷口将紀『現代日本の代表制民主政治』(東京大学出版会)の2pに載っているこのグラフです。 グラフのちょうど真ん中の山が有権者の左右イデオロギーの分布、少し右にある山が衆議院議員の分布、そしてその頂点より右に引かれた縦の点線が安倍首相のイデオロギー的な位置です。 有権者のイデオロギーよりも、衆議院議員のイデオロギーが右側にずれており、さらに安倍元首相
去年の夏に出たときに読もうと思いつつも読み逃していたのですが、これは読み逃したままにしないでおいて正解でした。 著者が2013年に出した『経済大陸アフリカ』(中公新書)は、アフリカの現実から既存の開発理論に再考を迫るめっぽう面白い本でしたが、今作も人口について基本的な理論を抑えつつ、それに当てはまらないアフリカの動きを分析していくことで、未来の世界が垣間見えるような面白い本です。 目次は以下の通り。 第1章 人口革命と人口転換 第2章 グローバル人口転換 第3章 アフリカの人口動向 第4章 人口と食糧 第5章 人口と経済 18世紀後半からイギリスで1%を上回る人口増加が持続的につづいたことが人口革命の始まりと言われています。その結果、イギリスの人口は1801年の約1600万人から1920年には約4682万人まで3倍近くになりました。 これがアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド
ここ最近、「ポピュリズム」という言葉が、政治を語る上で頻出するキーワードとなっています。アメリカのトランプ大統領に、イギリスのBrexit、イタリアの五つ星運動にドイツのAfDと、「ポピュリズム」というキーワードで語られる政治勢力は数多くいるわけですが、では、日本における「ポピュリズム」といえば、どんな勢力がそれに当てはまるでしょうか? そこで、小泉純一郎や都民ファーストの会と並んで、多くの人の頭に浮かぶのが、おおさか維新の会でしょう。特に代表を務めていた橋下徹は多くの論者によって代表的な「ポピュリスト」と考えられていました。 「橋下徹という稀代のポピュリストによって率いられ、主に政治的な知識が乏しい層から支持を調達したのが維新である」というイメージは幅広く流通していたと思います。 しかし、この本はそうしたイメージに対し、実証的な分析を通じて正面から異を唱えるものとなっています。 目次は以
私たちはさまざまなものを「所有」し、その権利は人権の一部(財産権)として保護されています。「所有」は資本主義のキーになる概念でもあります。 同時に、サブスクやシェア・エコノミーの流行などに見られるように、従来の「所有」では捉えきれない現象も生まれています。 本書は、この「所有」の問題について研究者が集まって書いた本なのですが、まずは冒頭の岸政彦とつづく小川さやかの論文で、私たちが生活していく上でかなり強い足場として認識している「所有」が、そうした足場になっていない社会の様子が紹介され、その後に経済学や歴史学や社会学の立場から「所有」が論じられています。 「所有」だけではなく、「制度」や「秩序」といったものについても考えが広がる、面白い内容になっています。 目次は以下の通り。 第1章 所有と規範―戦後沖縄の社会変動と所有権の再編(岸政彦) 第2章 手放すことで自己を打ち立てる―タンザニアのイ
2010年代になって自分の読書傾向は、完全に哲学・思想、心理、社会、歴史といった人文科学から政治、経済などの社会科学に移りました。その中でいろいろな面白い本に出会うことができたわけですが、基本的に社会科学の本、特に専門書はあまり知られていないと思います。 人文科学の本は紀伊國屋じんぶん大賞など、いろいろと注目される機会はあるのに対して、社会科学の本はそういったものがないのを残念に思っていました。もちろん、いい本は専門家の間で評価されているわけですが、サントリー学芸賞などのいくつかの賞を除けば、そういった評価が一般の人に知られる機会はあまりないのではないかと思います。 そこで社会科学の本の面白さを広めようとして書き始めたこのエントリーですが、最初にいくつか言い訳をします。 まず、「社会科学の本」と大きく出たものの、法学や経営学の本はほぼ読んでいませんし、以下にあげた本を見てもわかるように社会
中学で公民を教えるときに、教えにくい部分の1つが被差別部落の問題です。 問題を一通り教えた後、だいたい生徒から「なんで差別されているの?」という疑問が出てくるのですが、歴史的な経緯を説明できても、現代でも差別が続いている理由をうまく説明することはできないわけです。 もちろん、地域によっては子どもであって差別を身近に感じることもあるかもしれませんが、東京の新興住宅街などに住んでいると、差別が行われている理由というものがわからないのです。 本書はそのような疑問に答えてくれる本です。 本書の「はじめに」の部分に、結婚において差別を受けた部落出身の女性が、差別する理由を重ねて尋ねると、相手の母親が「すみません、なんで今でも差別があるんでしょうか?」と、差別をしているにもかかわらず、その理由を差別している相手(女性の母親)に訊くというエピソードが紹介されているのですが、差別している本人が差別している
それは、ある研究会での(城山英明)先生おご発言である。その日のテーマは、原子力政策だったと記憶している。詳しい文脈は覚えていないが、原子力安全規制に携わる人員は日本に比べてアメリカの方が圧倒的に多い。その意味でアメリカは案外大きな政府である、という先生のご指摘が筆者には大変印象的だった。気になって調べてみると、原子力行政に限らず、アメリカは日本よりも公務員が多い国だった。それまで筆者はアメリカの方が官僚制の権力が弱く、小さな政府なのではないかと思っていただけに、この事実は極めて反直観的であった。そして、なぜ日本では公務員がこれほど少ないのか、その理由が知りたくなった。(294p) これはこの本の「あとがき」に書かれている文章ですが、確かに「日本の公務員はアメリカよりも少ない」と聞くと、「えっ?」と思う人も多いでしょう。アメリカは「小さな政府」であり、それに比べると日本には肥大化した官僚機構
副題は「資本主義を生んだ17世紀の消費行動」。タイトルと副題を聞くと、「勤勉革命なのに消費行動?」となるかもしれません。 「勤勉革命」という概念は、日本の歴史人口学者の速水融が提唱したものです。速水は、江戸時代の末期に、家畜ではなく人力を投入することで収穫を増やす労働集約的な農業が発展したことを、資本集約的なイギリスの産業革命と対照的なものとして「勤勉革命」と名付けました。 本書によると、この労働時間の増大は17世紀後半のオランダにも見られるといいます。著者は、およそ1650〜1850年の時期を「長い18世紀」と呼んでいますが、この時期、世帯単位の労働時間は増えていきました。 この時期のオランダで「勤勉革命」などと言うと、マックス・ウェーバーを読んだ人であれば「プロテスタンティズムの影響?」と思うかもしれませんが、著者が本書で指摘する要因はずばり「消費」です。 この時期のオランダでは、陶器
著者は著名な経済史家で、経済学の立場としてはケインジアンだといいます。そんな著者が「なぜ中間層は没落したのか」というタイトルの本を書いたというと、近年の経済の動きと格差の拡大を実証的に分析した本を想像しますが、本書はかなり強い主張を持った論争的な本です。 現在、アメリカの社会は左右に分極化していると言われますが、著者は上下の分極化を指摘しています。アメリカの社会は上20%(本書はFTE部門(FTEは金融(Finance)、技術(Technology)、電子工学(Electronics)の頭文字)と呼んでいる)と下80%に分極化し、共和党はもちろん、民主党も基本的には上20%の代表になっているというのです。 そして、現在のアメリカはアーサー・ルイスが途上国の経済を分析するときに使った二重経済のモデルで説明できるというのが本書の主張になります。 少し陰謀論的な印象を受けるところもありますが、7
鳴り物入りで導入されたマイナンバー制度ですが、そのしょぼさと面倒臭さにうんざりしている人も多いでしょう。行政事務を効率化し、国民にもさまざまな利便性を提供すると言われていたマイナンバーですが、蓋を開けてみればマイナンバーの通知カードをコピーしてハサミで切ってのりで貼るというアナログな作業が増えただけと感じている人も多いと思います。 思い起こせば住基ネットと住基カードというのもありました。当時、免許を持っていなかった自分は身分証明書代わりに住基カードを取得しましたが、結局、身分証明書の役割を果たしただけで、何かが便利になったという記憶はありません。そして、ひっそりとマイナンバーカードに取って代わられて終わりました。 スウェーデンや韓国やエストニアのように「国民総背番号制度」が確立している国がある一方で、日本ではその導入が遅々として進みません。 この本は、その理由を日本の戸籍制度の変遷や情報化
出たばかりだけど『思想地図β』、面白いです。 巻頭の猪瀬直樹+村上隆+東浩紀の「非実在少年」をめぐる対談も熱いですし、その他の特集も非常に力が入っているのですが、一番面白かったのは「ショピングモーライゼーション」というショッピングモール特集。そして、その中でも東浩紀+北田暁大+速水健朗+南後由和の座談会の東浩紀と北田暁大の対立が非常に面白いし、考えさせられた! もともと『思想地図』という雑誌はという東浩紀と北田暁大の二人で始めた雑誌でNHK出版から出ていました。ただ、メンツの割にいまいちな面もあって本当に面白くなったのは、二人の路線が完全に決別した『思想地図vol.4』以降。 東浩紀が宇野常寛と組んだ『vol.4』は、学問的なものを捨てて、完全に「評論」に軸足を移したつくりで、村上隆とか山本寛とが対談に参加、阿部和重や鹿島田真希が短編を寄せ、さらに宮崎哲弥なんかを入れた対談もあって、完全に
民間企業だけでなく、学校でも病院でも警察でも、そのパフォーマンスを上げるためにさまざまな指標が測定され、その指標に応じて報酬が上下し、出世が決まったりしています。 もちろん、こうしたことによってより良いパフォーマンスが期待されているわけですが、実際に中で働いてみると、「こんな指標に意味があるのか?」とか「無駄な仕事が増えただけ」と思っている人も多いでしょうし、さらには数値目標を達成するために不正が行われることもあります。 この現代の組織における測定基準への執着の問題点と病理を分析したのが本書になります。著者は『資本主義の思想史』などの著作がある歴史学部の教授で、大学の学科長を務めた時の経験からこのテーマに関心をもつことになったそうです。本文190ページほどの短めの本ですが、問題を的確に捉えていますし、紹介される事例も豊富です。さらに、現在「新自由主義」という曖昧模糊とした用語で批判されてい
本書では1ページ目にいきなり下のようなグラフが掲げられており、「この図が、本書の到達点、そして出発点である」(2p)と述べられています。 グラフのちょうど真ん中の山が有権者の左右イデオロギーの分布、少し右にある山が衆議院議員の分布、そしてその頂点より右に引かれた縦の点線が安倍首相のイデオロギー的な位置です。 これをみると、国民の代表である衆議院議員は、国民のスタンスよりもやや右に位置しており、衆議院議員から選出された安倍首相はさらに右に位置しています。 どうしてこのようなズレがあるにもかかわらず、安倍政権は安定しているのか? それが本書が答えようとする問いです。 本書は、著者と朝日新聞社が衆議院選挙や参議院選挙のたびに共同で行っている「東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同調査」をもとに、各政党、各議員のイデオロギー位置を推定し、さらに有権者への調査を重ねていくことで、「小泉以降」の日本の政治
いろいろ忙しくて読むのに時間がかかってしまったけど,これは面白い本。 読み終えて思ったのは「自民党政権と貧困ビジネスは同じだったのか!」ということです。 著者はエール大学の助教授にして、2002年には山形4区から衆院の補選に立候補して当選し、1年ほど衆議院議員も務めたという異色の人物。かなり難解なゲームの理論などを駆使しており、読みやすい本ではないかもしれませんが、所々には自らの議員活動の経験から書かれたコラムも載っており、難しい部分を飛ばしても楽しめる内容になっていると思います。 1955年から1993・94年の細川・羽田政権の例外をのぞいて50年以上与党で在り続けた自民党。自民党は外交では現実的な政策をとりつつ、経済成長と農村への所得の再分配を両立させて長期政権を維持したというのが一般的な理解なわけですが、長期政権の理由はそれだけだったのか?そして自民党の長期政権が続いたにもかかわらず
一言でいえば新自由主義批判の本ですが、新自由主義がいかに格差社会を生み出したか、というような批判ではなく、新自由主義が政治の語彙を経済の語彙に変えてしまい、それが政治を歪めているということを、フーコーの『生政治の誕生』における「統治」の概念を用いながら批判的に分析しています。 と、書くと、読んだ人であれば稲葉振一郎『政治の理論』を思い出すかもしれません。 稲葉振一郎の『政治の理論』でも、フーコーが『生政治の誕生』で打ち出した「統治」の概念をキーに現代社会における政治の変容が分析されていました。古代ギリシャのポリスなどで行われていた「政治」にかわって、近世になると政治の場に権力による「統治」が持ち込まれ、それによって社会問題を解決することが期待されるようになってきたというのです。 ただ、違うのはこの本の著者のブラウンが「左翼」だということ。著者は自らを本の中でも「左翼」だと言っていますし、フ
トランプ大統領の誕生など、いわゆる「ポピュリズム」が注目を浴びています。この「ポピュリズム」の定義というのはなかなか難しいもので、政治学者の間でもその捉え方には違いがある状況ですが、多くの分析において「ポピュリズム」の隆盛の原因として広がる格差の問題があげられています。 ただ、格差の拡大によって剥奪感を感じた人々が現状の政治に不満を持つという回路は分かりやすいのですが、そうした人びとがトランプのような人物を支持するという点には謎が残ります。 格差の拡大によって貧しくなった人びとが、サンダースや急進的な再分配を訴える左翼的なポピュリズム政党を支持するというのはわかりやすいですが、「雇用」を連呼しているとはいえ、規制緩和と富裕層への減税を主張するトランプを支持することにはわかりにくさが残るのです。 つまり、「新自由主義」は市場における競争を重視する考えで「弱肉強食」的な世界をつくりだすと考えら
もはや政治学の新しい古典とも言っていい本の第2版。まだ読んでいなかったのですが、この度第2版が出たのを機に読んでみました。 個人的にこの本を読んで得られた知見は以下の3つ。 多数決型民主主義とコンセンサス型民主主義を比べてみた場合、従来言われるコンセンサス型民主主義の欠点というのは実はあまりない。 「特殊」と言われがりな日本の民主主義だけど、国際比較で見ると大部分の面で平均的。 「比較」というのはやはり大変。 まず1について。この本の一番の主張はこれです。 民主主義には多数派による統治をめざす多数決型民主主義と、統治へのできるだけ広い参加を目指すコンセンサス型民主主義があります。多数決型民主主義の代表は小選挙区制で2大政党が争い勝った政党が単独内閣をつくることが多いイギリス、コンセンサス型民主主義の代表は比例代表制によって多くの政党が議席を持ちそれらの政党が連立して内閣をつくるスイスやベル
世界の不平等について論じた『不平等について』や、「エレファント・カーブ」を示して先進国の中間層の没落を示した『大不平等』などの著作で知られる経済学者による資本主義論。 現在の世界を「リベラル能力資本主義」(アメリカ)と「政治的資本主義」(中国)の2つの資本主義の争いと見た上で、その問題点と今後について論じ、さらに「資本主義だけ残った」世界の今後について考察しています。 著者のミラノヴィッチはユーゴスラビア出身なのですが(ベオグラード大学の卒業で、アメリカ国籍を取得)、そのせいもあって社会主義とそこから発展した中国の政治的資本主義の分析は冴えており、「社会主義が資本主義を準備した」という、挑戦的なテーゼを掲げています。 アセモグル&ロビンソンは『国家はなぜ衰退するのか』や『自由の命運』の中で、中国の発展はあくまでも一時的なものであり、民主化や法の支配の確立がなされないかぎり行き詰まると見てい
『大脱出』の著者でもあり、2015年にノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートンとその妻で医療経済学を専攻するアン・ケースが、アメリカの大卒未満の中年白人男性を襲う「絶望死」の現状を告発し、その問題の原因を探った本。 この絶望しに関しては、アビジット・V・バナジー& エステル・デュフロ『絶望を希望に変える経済学』でもとり上げられていますし、大卒未満の中年白人男性の苦境に関しては、例えば、ジャスティン・ゲスト『新たなマイノリティの誕生』でもとり上げられています。学歴によるアメリカ社会の分断に関しては、ピーター・テミン『なぜ中間層は没落したのか』も警鐘を鳴らしています。 そうした中で、本書の特徴は、絶望死についてより詳細に分析しつつ、対処すべき問題としてアメリカの医療制度の問題を指摘している点です。 例えば、ピーター・テミンはアメリカ社会の分断に対する処方箋として、公教育の充実、大量投獄か
サウジアラビアやUAEやクウェートやカタール、あるいはブルネイ、あるいはノルウェー、いずれも豊かな産油国であり、「それに比べて資源の乏しい日本では…」といった思いを抱きがちですが、経済学を少しかじったことのある人なら、石油の存在がかえって経済成長を妨げる「オランダ病」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。原油の輸出が通貨高をもたらし、その他の産業の競争力を削ぐという現象です。 しかし、「石油の呪い」は、こうした経済的側面だけにとどまらず、政治的な側面にも負の影響を与えるのです。 本書によれば、1980年以降、産油国は非産油国に比べて民主化が進展せず、より秘密主義的になっています。また、途上国の産油国に限れば、女性の雇用や政治的な進出が進まない傾向が見られ、暴力的な反乱に苦しむ傾向にあります。 この本は、石油のもたらす政治的な負の側面を、計量分析を駆使しながら明らかにした本になります。
タイトルからするとコロナ禍の中での読書生活の記録みたいに思えますが、そうではなくて、1学期も終わって少し落ち着いたところで、新型コロナウイルス問題を考える上で参考になった本をいくつかあげておこうというエントリーです。 とは言っても、医学的な問題には疎いですし、ウイルスや感染症についての本を読み込んでいるわけもないです。正直、新型コロナウイルスがどうなるかどうかはわからないですし、「コロナ後」の世界についても何か見通しを持っているわけでもありません(ニュースになり始めた段階では2009年の新型インフルエンザのことを思い出して、「これはどこかで2週間位の休校があるか?」と思っていた程度でしたが、2週間じゃすみませんでしたね)。 ここで紹介するのは新型コロナウイルスが引き起こしたさまざまな問題の文脈を考えるための本が中心になります。新型コロナウイルスに関する知識は今まさに生まれつつあるところです
近年、論文が業績の中心となり、テクニカルな内容も増えている経済学の中で、「○○の世界」というタイトルの本はあまり見ないような気がします(社会学だとありそうですが)。 しかも、1972年生まれの著者にとってこれが初の単著。ずいぶん思い切ったタイトルだなと感じたのですが、そのタイトルにふさわしい内容とボリュームです。『あゝ野麦峠』の話から戦前の日本の職業紹介の制度を分析するという、「これが経済学の本なのか?」というテーマから始まり、「正規から非正規へと言われるが、実は正規雇用は大して減っておらず、自営が減って非正規が増えているのだ」という分析を中心として、日本の雇用を巡る問題を幅広く論じています。 第58回(2017年度)エコノミスト賞を受賞しているようにすでに評価の高い本ですが、評判通りの面白さだと思います。 目次は以下の通り。 序 章:本書の目的と構成 第Ⅰ部:制度の慣性 第1章:戦前日本
2005年にノーベル経済学賞を受賞し、昨年の12月に95歳で亡くなったトーマス・シェリングの比較的一般向けに書かれた本。 ノーベル経済学賞を受賞したシェリングですが、経済学者というよりはゲーム理論の専門家と言うほうがその業績はわかりやすいかもしれません。実際、主著の『紛争の戦略』は、日本では政治学の名著を紹介する「ポリティカル・サイエンス・クラシックス」の1冊として刊行されており、政治学にも大きな影響を与えた人物です。 そんなシェリングが書いた『ミクロ動機とマクロ行動』というこの本ですが、これまたなかなか適当なラベルを貼るのが難しい内容です。 第7章を除けば、それほど難しい事は言っていません。さまざまな身近な事例をあげながら話が展開していくので、多くの人が「あるある」と思いながら読めるでしょう。 そんな「あるある」な現象を、単純な「算術」とゲームの理論を始めとする経済学のいくつかの知見で読
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