ヒューゴー賞は世界で最も歴史の古いSF・ファンタジー文学賞であり、世界のどこかで毎年開催される世界SF大会(ワールドコン)で受賞作が発表されます。2023年のワールドコンは中国の成都で開催されましたが、審査委員会がヒューゴー賞の最終選考作から「中国で問題になりかねない」として複数の作品や作家を除外していたことが判明しました。 The 2023 Hugo Awards: A Report on Censorship and Exclusion - File 770 https://file770.com/the-2023-hugo-awards-a-report-on-censorship-and-exclusion/ Authors ‘excluded from Hugo awards over China concerns’ | Hugo awards | The Guardian ht
ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)の『The Ominichord Real Book』は2023年を代表するアルバムになったのと同時に、長いキャリアの中で数多くの傑作を発表してきたミシェルにとっての新たな代表作にもなった。 ジャズの名門ブルーノートからリリースされた同作には数多くのジャズミュージシャンが参加し、素晴らしい演奏を聴かせている。だが、このアルバムの凄さはそれだけではない。ミシェルはここに収められた曲に様々な文脈を込めている。それは曲名や歌詞、サウンドに様々な形で埋め込まれている。宇宙観や死生観を含めて、ミシェルの哲学のようなものが詰まっているとも言えそうなくらい壮大なものだ。 近年、両親を亡くしたことをきっかけにミシェルはアフリカ系アメリカ人としての自身と祖先への思いを強めていた。そんな思考を、彼女は音楽による壮大な物語の制作に向かわせた。そし
宇宙の果ての本屋 現代中華SF傑作選 作者:顧適,何夕,韓松,宝樹,陸秋槎,陳楸帆,王晋康,王侃瑜,程婧波,梁清散,万象峰年,譚楷,趙海虹,昼温,江波新紀元社Amazonこの『宇宙の果ての本屋』は、日本における中華SF翻訳・紹介の立役者立原透耶編集による中華SF傑作選になる。2020年にも同じ新紀元社から『時のきざはし』という中華SF傑作選が出ていて、本書はその続篇というか第二巻にあたる。 『時のきざはし』のレベルは高く、今なお中国の才能を知るためのSFアンソロジーとしてはトップクラスにおすすめしたいしたい傑作だが(文庫化してないから値段的にはあれだけど)、作品全体のレベルでいえば『宇宙の果ての本屋』に軍配があがる。それぐらい全15篇すべてのレベルが高く、時間や猫など様々なテーマ・題材がある中で、どれもが一生記憶に残るような鮮烈な印象を遺してくれる一冊だ。 huyukiitoichi.ha
作家、神林長平さんは「言葉」「機械」などのテーマを重層的に組み合わせた独自の世界観を反映させた数々の作品で知られる。現代を代表するSF作家の一人として、急速に普及が進む人工知能(AI)をどう見ているのだろうか。寄稿してもらった。 2023年は、チャットGPTに代表される対話型AIが爆発的に普及し始めた年として記憶されるだろう。機械相手に自然な会話ができるというのは驚きを伴う楽しい体験に違いないが、それが実用面で使われると、他人の権利や人権を侵害する恐れがある。ここにきてそれが顕在し、対応策もいろいろ議論されているのは報道されているとおりだ。 対話型、すなわち言語を主体とする生成AIの利用がさまざまな方面で社会的な問題を引き起こすという現象は、社会というものを成立させ、支えているのが「言葉」であることを思えば、当然理解できる。<言葉>は社会を生み、文化や技術を発達させてきた。いつの頃からか人
次へ:前へ:目次 『1984年』 Nineteen Eighty Four (1949) ジョージ・オーウェル 山形浩生 訳 (hiyori13@alum.mit.edu) 2023年11月 第 I 部 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 第8章 第 II 部 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 第8章 第9章 第 III 部 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 補遺:ニュースピークの原理 訳者あとがき その他フォーマット LaTeX版:https://genpaku.org/1984/1984_jp.tex (0.8MB) pdf版:https://genpaku.org/1984/1984_jp.pdf (1.6MB) MS-Word版:https://genpaku.org/1984/1984
最近、こんな話題があったんですが、読んでいるうちに「いや、違うだろ!そもそも初期から帰ろうとしていないだろ!!『火星のプリンセス』を読めよォ!」という思いが湧いてきたので、記録を残しておきます。 傾向を考えるのは楽しいけど、慎重に誤解しないでほしいんですが、こういう「最近こういうのが流行りなんじゃね?」みたいな話は私、大好きなんです。教室の片隅とかで、椅子の背もたれを抱え込みながら、友達と延々と語りたいですよね。マジでわかる。そういうのを実現させてくれるインターネットありがとう。 でもでも、でもですよ、それって言ってみれば与太話みたいなものであって、「なんとなくこう思う」レベルの仮説にしか過ぎないわけじゃあないですか。なのに、検証プロセスをすっ飛ばして「最近の若い子はこういうことを考えているんだ!」みたいに安易に世相を斬ってわかった気になるのはちょっと待った方がいいんじゃないの?って思うん
2004年から16年にわたり少女漫画誌で連載され、21年2月に全19巻のコミックスが完結したよしながふみの『大奥』。男女の立場が逆転した江戸時代を舞台に、徳川幕府の女将軍たちを巡る愛憎を描き、国内外で「改変歴史SF」としての評価も高い。青年漫画誌で連載中の『きのう何食べた?』は中年のゲイカップルの日常を描く。両作品とも幅広い人気を得て、テレビドラマ化・映画化もされた。改めて、よしながワールドの魅力をひもとく。 男女の社会的地位が逆転 【以下の内容はネタバレを含みます。】 江戸時代の三代将軍家光の時代に、男だけがかかる赤面疱瘡(あかづらほうそう)がまん延し、男性人口は激減、百姓、商家、武家まで一家の大黒柱となる働き手や後継ぎを失う。家光もこの疫病で亡くなり、ひそかに家光の隠し子である娘が将軍職を継ぐ。やがて女将軍が当たり前の男女逆転の世の中になっていく。これがよしながふみの描く「歴史のif」
*English translation is available here! 東京在住のオガワ・ユキミさんは大学時代は英語を専攻し、現在は会社員生活のかたわら英語で小説を執筆している。彼女の作品はFantasy & Science Fiction、Strange HorizonsやClarkes Worldといった英語圏のSF・ファンタジー雑誌に掲載されてきた。”Town’s End”(2013)はLocus誌の短篇小説時評でリッチ・ホートンに高く評価され、彼の年刊SF・ファンタジー傑作選(The Year's Best Science Fiction & Fantasy, Ed. Rich Horton, Prime Books, 2014)に収録された。母語が日本語の日本人作家が英語圏の年刊SF・FT傑作選に掲載された先例はあるものの(※)翻訳ではない小説が掲載されたパターンは知る限
VG+編集部 更新日2020.03.9 N・K・ジェミシン 新三部作は「反人種主義のX-MEN」——米で3月刊行の『The City We Became』 Orbit Books N・K・ジェミシンの新トリロジーがスタート 『第五の季節』から始まる「The Broken Earth」トリロジーで、ヒューゴー賞三連覇を達成したN・K・ジェミシン。早くも新たな三部作「The Great Cities」トリロジーの第一弾がアメリカで刊行される。2020年3月24日にOrbit Booksから発売される『The City We Became』は、近未来のニューヨークを舞台に人種をテーマに扱う作品になるという。
アメコミを読みました。 グリーンランタン"ジョー"の活躍を描くミニシリーズ『ファー・セクター』です。 ■感情を奪われた惑星で巻き起こる殺人事件 グリーンランタンコァが守る銀河から遠く離れた惑星、通称"ファーセクター"。 三つの種族が混在し、感情を意図的に排除させることで治安を維持していたこの惑星で、一件の殺人事件が発生します。 派遣された新人グリーンランタン"ジョー"は、殺人事件の調査を開始。 容疑者の謎の死、感情を解き放つ薬物"Switchoff"、かつての侵略者の再来… 数々の要素が複雑に交錯していくなか、失われた感情を取り戻そうとする人々による革命の物語が動き出そうとしていたのでした。 ■設定1:悠久の都市と三つの部族 ファーセクターの都市City of Enduranceには三つの種族が存在しています。 人間のような外見で魚のようなヒレを持つNah族。彼らの代表であるマースオブザシ
言うほどSFファンでもないぼくがオクタヴィア・E・バトラーを知ったのは、ご多分に漏れずアフロ・フューチャリズム研究における先駆者のひとりに名前があったからだった。いや、「ご多分に漏れず」とは、我ながら偏見に満ちた言い回しだ。彼女の小説は、「ご多分に漏れず」フェミニズムの文脈でも読まれているのだから。ぼくがこれまで唯一読んだことのあるバトラー作品は、ハードカヴァーの、山口書房から刊行された『キンドレッド―きずなの招喚』だ。読む前に想像したのはサミュエル・R・ディレイニーの、たとえば『バベル-17』や『アインシュタイン交点』のような、カウンター・カルチャーにも汲みするニューウェイヴSF的な思考実験を詩的に展開するスペキュレイティヴ・フィクションだったけれど、読後に思ったのは、これはJ・G・バラードというよりもアリス・ウォーカーに近いということだった。待望の翻訳、『血を分けた子ども』を読んだいま
第一回 21世紀日本における中国SFの翻訳状況 大恵 和実 ■はじめに これまで日本では、中国現代文学といえば、莫言・閻連科・余華・残雪のように、中国社会のタブーや性愛に果敢に挑み、グロテスクにして絢爛なマジックリアリズム要素の濃い作品が多く紹介されてきた。その一方、20世紀末には金庸をはじめとする武侠小説の翻訳が進められてきた。そして2010年代になると、華文ミステリーや中国SFの翻訳が急速に進んだのである。 特に中国SFの躍進は著しく、21世紀に翻訳された中国SFは、商業出版に限定しても、既に長篇11作・短篇141作に及んでいる(2022年4月7日時点)。その9割以上が2015年以降に翻訳されている。昨年、邦訳が完結した劉慈欣『三体』三部作(詳細は後述)は、累計発行部数61万部を突破した。これは近年の中国文学としては異例の数字である(1)。また、『SFが読みたい!』(早川書房)のベスト
「折りたたみ北京」の著者・郝景芳が描き出した美しき火星SF『流浪蒼穹』。本欄では、作家であり中国SF紹介者・翻訳者として活躍する立原透耶氏の解説を再録します。 本作を読み、「こんな小説が読みたかった」と感嘆した立原氏。その理由とは――? 解説 作家・翻訳家 立原透耶 こんな小説が読みたかった、読み終えて最初に感嘆とともに漏れた言葉がそれである。 物語は全部で三つのパートに分かれている。火星出身の少女ロレインを中心とした群像劇にも似た展開である。ロレインは五年にわたる地球への留学を終えて火星に戻ってくる。しかしそのことによって彼女は地球と火星、どちらにおける人のあり方にも疑問を抱くようになってしまう。何が幸福なのか、何が真実なのか。苦悩するロレインに対し、火星で成長した兄は変化してしまっていた。火星を指導する祖父、謎の事故死を遂げた両親、留学仲間、火星に残った友人たち、信頼できる大人のレイニ
N・K・ジェミシンに影響を与えた作品とは? 前人未到の3連覇作家が誕生 SF最高賞の一つとして知られるヒューゴー賞。今年は黒人女性SF作家のN・K・ジェミシンが『The Stone Sky』で長編小説部門を受賞し、前人未到の三連覇を達成した。そんなジェミシンがSF作家として成功するまでのストーリーは、以前VG+で特集したが、今回は彼女が影響を受けたというある作品に注目してみよう。 日本の作品への親近感 ジェミシンが影響を受けた作品とは、意外にも日本の漫画だ。ジェミシンは、ブログやインタビューなどで、ことある毎に『大奥』(2004-)に影響を受けたことを公言している。はやかわともこ作の『ヤマトナデシコ七変化』(2000-2015)もお気に入りの作品として挙げることもあり、日本の少女漫画を好んでいることが分かる。また、ジェミシンは自身も認めるゲーマーであり、RPGゲームはアメリカの作品よりも日
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