作家、コラムニスト/ブレイディみかこ 英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。 * * * 英国政府の新型コロナウイルス対策に関する独立調査委員会の公聴会にキャメロン元首相が呼び出された。「なぜキャメロン?」と思う人もいるかもしれない。彼は2016年に退任し、コロナ禍が始まる3年前には政界を引退していたからだ。 しかし、そこが「しつこい」ことで知られる英国の独立調査委員会だ。国がパンデミックの可能性を想定せず、準備を怠っていたとすれば、コロナ禍前の政府にも責任の一端がある。だから何代も前の首相に遡(さかのぼ)って責任の追及が行われているのだ。 特に委員会が問題視しているのは、2010年から首相を務めたキャメロンの下で行われた大規模な緊縮財政政策の影響だ。予算を削減されたNHS(国民