南九州の民俗楽器、ゴッタンの製作者は現在、数人しかいない。その中で、40歳の若き職人が宮崎県三股町で「美木工房」を構える上牧正輝だ。この地域にはゴッタン製作者として宮崎県伝統工芸士に認定された黒木俊美(74)がいる。 黒木は地元の民俗芸能研究家、鳥集(とりだまり)忠男(故人)から「途絶えさせてはいけない。作ったらどうか」と製作を勧められた。20歳ごろから製作を始めた。ゴッタン奏者の大家、荒武タミ(故人)にも何度も試作品を弾いてもらうなどゴッタンの音を追い求めた男だ。 ゴッタンは「大工が作る楽器」ともいわれる。かつて家を新築したとき担当した大工が新築祝いにゴッタンを贈るのが習わしだった、という。黒木は木工職人で、鹿児島県曽於市財部のゴッタン製作者の平原利秋(80)も大工だ。民衆の楽器を民衆の技術で守っている。 × × 上牧がゴッタンを製作するきっかけになったのは20歳前の、黒木との出会