<少子化の原因とされる若年層の生活不安はデータ上存在しない。ただ、国家が成熟して目標を失い、「漠然とした不安」が活力を奪っているのだ> 今から30年以上も前のことである。人生初の留学で暮らしたソウルの下宿には女主人がいて、日本にも行ったことがあるという。「印象はどうでしたか?」。そう尋ねた筆者に、彼女は不思議そうに言った。「日本にはね、街に子供がいないのよ」 言われるまで気付かなかったが、確かに当時のソウルには至る所に子供がいた。当時の子供たちが生まれた1980年代初頭の韓国の合計特殊出生率は2.0を超えており、逆に日本は1.7前後の数字で推移していた。 その差がそのまま街にいる子供の数となって表れていた。 しかし、今、ソウルの街に子供はいない。2000年代初頭に日本を下回った韓国の合計特殊出生率はその後も下がり続け、18年にはついに1.0を割り込んだ。そして昨年の数字は0.72。 数値と