映画の魅力は細部に宿る。どうせ見るならより多くの発見を引き出し、よりお得に楽しみたい。「仕事と人生に効く 教養としての映画」(PHP研究所)の著者、映画研究者=批評家の伊藤弘了さんが、作品の隅々に目を凝らし、耳を澄ませて、その魅力を「よくばり」に読み解きます。 *映画の結末に触れています。ご注意ください。 「こんな学校がいる先生に……」 一見してわかるように、これは明らかな言い間違いである。じっさい、この言葉を口にした麦野早織(安藤サクラ)は、即座に「こんな先生がいる学校に子供預けられないでしょ」と言い直す。これが「普通」の言い方である。早織は、息子の湊(黒川想矢)が担任教師の保利(永山瑛太)から暴力を振るわれていると信じている。その担任を目の前にして、冷静さを失っていることがうかがえる。 早織の言い間違えが意味するもの彼女の言い間違いは、撮影現場で偶然発生したものを採用したわけではなく、