パリに降り立ったら、そこはヴァカンスでした。 ヴァカンスといえば文学が馴染みます。わたくしだったら、若いときに読んだフランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』。微熱の気だるさとアンニュイな生理の重さが交差したような読後感がよみがえります。 ヴァカンスのもともとの意味は「空っぽ」。英語ならvacantですね。むかし有閑階級という言葉がありましたが、金持ちがすることもなくボーッとしていることの形容だったそうです。 フランス人にとっては「仕事=足かせ」!? ヘンリー・ジェイムスの『デイジーミラー』では、ヴァカンスのころのパリかローマの情景を“dead season”と表現していたと記憶します。星のついたレストランも地元のブティックもお休みで街は閑散、歩道には風に転がる空き缶の音が空虚に響くばかり……の風情です。 年に5週間の有給休暇に週35時間労働。フランス人は1カ月のヴァカンスのために11