1930 年代にホルクハイマーによって定式化された「批判理論」は,その後今日に至るまで,いわゆるフランクフルト学派の旗印となってきた。批判理論の核心にあるのは,事実なるものへの物神崇拝的態度への批判や事実の社会的な被媒介性への認識,認識主体と客体は単純に分離できないという考え,伝統理論が標榜する価値自由に対する批判である。その核心自体は変わらないものの,亡命と戦争の時代を経た戦後の批判理論は,マルクス主義的な基本公理からの離反(アドルノ),そしてヘーゲル主義的マルクス主義の全体性概念からの離脱(ハーバーマス)という特徴を示すようになる。