日本で最も半導体バブルに沸く熊本──。キャベツ畑が広がるエリアにそびえ立つ世界最大の半導体メーカー「TSMC(台湾積体電路製造)」の巨大工場は、地域に何をもたらしたのか。中国在住経験のあるジャーナリストの西谷格氏が現地をリポートする。 【現地写真11枚】TSMC第1工場の周辺に広がるキャベツ畑。台湾タウンに変わりつつある熊本・菊陽町 * * * 熊本市東端に位置する市営団地の一角に、一際新しい3階建ての瀟洒な低層マンションが並んでいる。今年2月に稼働を開始したTSMC熊本工場の従業員が住む4棟の社宅だ。日中、出入りしているのは30代の身綺麗な女性や小さな子供たち。一見、よくある郊外の日常風景だが、彼ら台湾人の経済力はケタ違いである。4月から長男が小学生になるという30代の住人女性に中国語で話を聞いた。 「昨夏、夫とともに本社のある新竹(シンジュー)から来ました。日本は台湾より物価が安いので
魏晋南北朝から隋唐時代にわたり、中国から仏教の本場インドに向けて旅立った「渡天竺僧(とてんじくそう)」と呼ばれる数多くの僧侶(梁啓超によれば存在が知られるものだけでも一六九名)が出現した。その旅の記録を現在に伝えている僧侶はほんの僅かしかいないが、ここに取り上げる玄奘(げんじょう)(六〇二―六六四)はそうした僧侶の一人である。たとえ玄奘の名を知らなくとも、『西遊記』という名の小説や劇・テレビドラマ・映画などを通じ、三蔵法師としてその存在は世間に知れ渡っている。そのため彼の旅の様子や人物像については、それら創作物によって作られたイメージが強く纏わりついている。ただ彼が残した著作物を見ると、一般に理解されている旅の雰囲気とはかなり異なる側面も認められる。そこで今回は玄奘の旅の実際の姿を紹介してみたい。そこから、東アジアを越えてパミール以西のトルキスタンやアフガニスタン・インドまでも包含する広域
記事:筑摩書房 original image:designprojects / stock.adobe.com 書籍情報はこちら ウォルト・ディズニー映画パイレーツ・オブ・カリビアン(Pirates of the Caribbean=カリブの海賊)の第三作目では「東インド会社」をモデルにした「東インド貿易会社」という架空の貿易会社が登場する。映画では、この貿易会社が所有する海軍の帆船が「カリブの海賊」を追跡し、犯罪者として海賊を逮捕する筋書きになっているが、実在した東インド会社の設立をエリザベス女王に持ちかけ、会社設立の出資金を集めたのは、実は海賊たちであった。 エリザベス女王は金儲けに目がなかった。王室の財政を潤沢にし、イギリスを豊かな国家に成長させるためには、どうしても豊富な資金が必要であった。第一の、そして最大の資金源は、海賊に盗ませた略奪品を転売することであり、第二の資金源は、大物
4月10 田原史起『中国農村の現在』(中公新書) 9点 カテゴリ:社会9点 中国農村へのフィールドワークによって中国農村の姿を明らかにしようとした本。非常に貴重な記録で抜群に面白いです。 中国の農村と都市の格差については、NHKスペシャルなどで熱心に農民工の問題をとり上げていたので知っている人も多いと思います。彼らが村に帰ると、そこは都市部に比べて圧倒的に貧しく、お金を稼げそうな仕事もないわけですが、そうした中で農民たちの不満は爆発しないのか? と思った人もいるのではないでしょうか。 また、中国の農村は日本の農村のような地縁による強固な共同体ではなく非常に流動性が高いといった説明がなされますが、「農村」という言葉を日本の農村でイメージする私たちにとって、なかなか流動性の高い農村というイメージはつかみにくいと思います。 こうしたさまざまな疑問に答えてくれるのが本書です。詳しくはこのあと書いて
生い立ち、音楽的バックグラウンド 影響を受けたベース・プレイヤー 自由と現実が訪れる街、フロリダ ロン・カーター、フランク・シナトラ リトル・ビーヴァー カルロス・ガルシア ジャコ奏法の確立へ向けて ビ・バップの譜面 ワード・オブ・マウス ジャコ・パストリアス魂の言葉 作者:松下 佳男 リットーミュージック Amazon 生い立ち、音楽的バックグラウンド 父親はギリシャ系で(略)ドラマーで歌手なんだ。フランク・シナトラとかトニー・ベネット風のジャズ・シンガーだ。もちろん現在も現役としてやっている。 (略) 僕が7歳になった時、両親は離婚してしまい(略)母と一緒にフロリダに移住することになった。(略)アメリカとキューバが国交を断絶する前だったから、フロリダではキューバの音楽がとても盛んだったんだよ。トリニダッドのカリプソとかスティール・ドラムのバンドなんかもよく聴かれていたね。ラジオでもこの
イスラエルの独立系ネットメディア「+972マガジン」とローカル・コールは共同取材チームでイスラエル軍がガザ攻撃で使用している人工頭脳(AI)マシン「ラベンダー(Lavender)」についての長文の調査報道を公開した。ラベンダーの存在がメディアに登場するのは初めて。同取材チームはこれまでも「ハブソラ(福音)」というAI標的生成マシンについて調査報道を公開した。ハブソラが 建物を標的とするAIマシーンなのに対して、ラベンダーは人を標的とするAIマシンという。 ※参考記事:イスラエル軍のガザ攻撃で市民死者の激増の背景にあるAI標的生成システム:イスラエルメディア調査報道 調査報道は「ラベンダー(Lavender):ガザでイスラエル軍に爆撃を指示する AIマシン」 というタイトル。取材はイスラエル軍情報部門に属し、今回のガザ攻撃に参加し、ハマスやイスラム聖戦の工作員・戦闘員の暗殺作戦のために標的を
中村健之介著 『宣教師ニコライと明治日本』 1880年、ドストエフフキーは妻に「いまモスクワに来ている日本のニコライにぜひ会いたい。かれは大変私の興味をそそる」という手紙を出している。そしてその面会は果たされ、かなり満足したようである。 この「日本のニコライ」とはあの「ニコライ堂」のニコライのことである。ニコライ側の反応が気になるが、残念ながら彼の書いたものは関東大震災で焼けてしまった……と思われていたのだが、実はレニングラード(サンクト・ペテルブルグ)の古文書館に日記が保管されていたのである。 ニコライはドストエフスキーについてなかなか興味深い日記を残しているが、その「ニコライの日記の紹介をめざす」ために1996年に刊行されたのが本書である。 ニコライは1861年(明治維新の7年前)に修道司祭として日本にやって来る。当時25歳。以後二度の一時帰国を除いて1912年の死まで日本で過ごすこと
奥波一秀『フルトヴェングラー』を読んだ。 フルトヴェングラー (筑摩選書) 作者:奥波一秀 発売日: 2018/11/02 メディア: Kindle版 内容は、紹介文のとおり、 本書は、ヴァイマル期からナチ期、そして戦後における音楽家の振る舞いと内面を同時代人たちとの関係を通して再検討した渾身の作品である。政治に対する倫理のありようを見定め、さらには、その音楽思想がいまなお投げかけてくるものを考察する。 というもの。 十年は前の本だが、読みごたえがある。 以下、特に面白かったところだけ。 退廃と芸術とゲッベルス 「ろくでなし」だからこそ、うまく指揮できるのだ。「まじめ」なドイツ国民が必ずしもよい芸術を生み出せるわけではない、退廃・デガダンと結びついてこそ輝く芸術もある、とゲッベルスは考えているわけである。 (36頁) 後年退廃芸術を排斥するゲッベルス、そんな彼の1923年ごろの話である。*
この記事ではこれから、「生活する性別」という概念を紹介します。この概念を手に入れることで、トランスジェンダーの人たちの生きる状況がよく理解できるようになるからです。反対から言えば、この「生活する性別」という発想を持っていないと、トランスの人たちについて、誤った理解を持ってしまう結果にもなります。 1.「心の性」と「身体の性」 トランスジェンダーの人たちの状況を言うために、これまでずっと「心の性」と「体の性」という概念が使われてきました。「トランス男性は『身体が女性で心が男性』の人です」といった風に。これらの言葉は、社会がトランスジェンダーの存在を理解し、受け入れるために確かに役に立った面もありました。しかし、その目的にとって、明らかに物たりない面があります。詳しくは以下に書きました。 yutorispace.hatenablog.com 上の記事では、「心の性」と「身体の性」をやめるべき理
ウォルター・アイザックソン著 『キッシンジャー』 1923年、ハインツ・アルフレート・キッシンガーはドイツで生を受ける。この時代にユダヤ人としてドイツで生きていくのは当然厳しく、15年後キッシンガー家はアメリカへ移住、ハインツはヘンリーと呼ばれるようになる。 学費が無料であるニューヨーク市立大学に進学し、会計士になろうかとも考えていたヘンリー・キッシンジャーのもとに召集令状が届く。これが彼の人生を一変させることになる。アメリカの市民権を得られたのみならず、優秀な人間に与えられる陸軍特別研修プログラムを受けることにも成功。故郷ドイツへはアメリカ軍の一員として戻ることになり、対諜報部隊員としてナチやゲシュタポの狩り出しを行い、そして行政官として手腕を発揮した。有力者の知己も得、戦後は復員軍人を多く迎え入れていたハーヴァード大学へ進学する。アカデミズム内でキャリアを重ね、ついにワシントンへと乗り
熊野直樹著 『麻薬の世紀 ドイツと東アジア一八九八-一九五〇』 「著者はもともとヴァイマル期からナチ期にかけてのドイツ通商政策を研究していたが、そこでは農業界と工業界との対立の争点であったバターが分析対象であった。その際、市場でのバターの競争相手がマーガリンであった。やがてその主たる原料が一九三〇年代には満州大豆であることがわかった。そこで満州大豆を追跡調査していたところ、阿片へとたどり着いたわけである」と、あとがきで著者は「本書は奇しくも、物々交換によって長者になった日本昔話の「わらしべ長者」のような展開になった」としている。 まずは著者のもともとの専門であったバターの問題から見てみよう。この問題を通しても、巷間言われがちヒトラーは選挙によって選ばれたというのが、完全に間違いではないもののまた単純化したものであるということもわかる。 世界大恐慌に先駆け、ドイツでは一九二七年から八年にか
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