もちっとした甘い生地に、びっちりと詰まったこし餡。かじるとふんわり甘酒の匂いが広がる。真ん中のくぼみにのっている桜の塩漬けが、餡の甘さを引き立てる。 パンというより、もはや和菓子の域。1つ食べると、決まってもう1つ食べたいという気にさせられるところがニクイ。 「木村屋總本店」の酒種を使った、桜あんぱん(1個147円)。その記念すべき最初の1個が披露されたのは、1875(明治8)年4月4日。向島の水戸藩下屋敷を訪れた明治天皇へ、献上品として差し出されたものだった。 作ったのは、木村屋の創業者・木村安兵衛と、その息子・英三郎である。 安兵衛は、もともと常陸国河内郡田宮村の出の下級武士だった。維新によって職を失った安兵衛は、東京府授産所の所長を務めていた本家の当主・木村重義の口利きで、授産所の事務の仕事に就いた。授産所とは、職を失った武士のために新政府が設けた、今で言う職業訓練施設のような機関で