無名人の留学記である。そんなもん誰が読むねん、というのが、とりあえず大多数の人たちにとっての率直な感想だろう。ごもっともである。 それ以前に、留学記というものが読まれなくなってきているような気がする。かつては、小澤征爾の『ボクの音楽武者修行』や藤原正彦の『若き数学者のアメリカ』といった名作があって、いまも文庫におさめられている。もしかすると、情報が少なく、外国生活へのあこがれが強かった時代こそのジャンルだったのだろうか。 まずは利益相反のディスクローズを。この本の著者、白井青子は内田樹先生の教え子で、ちょっと知り合いである。本を出しますからよろしくお願いしますといわれて、内田先生にも頼まれて、浮き世の義理でへいへいと適当に返事をしていたら、ゲラがドンと送られてきた。 製本されたものに比べると、A3の紙に印刷されただけのゲラはとっても読みにくい。所詮は義理だし、つまらんかったら途中でやめて裏