サイエンス本が好きである。物理学の本を読めば、この世を動かす仕組みの偉大さとそれを簡潔に書き表す人間の知性に感動することができる。生物学の本を読めば、生命の不思議さに戸惑いながら、我々はどこから来てどこへ行くのかについて思いを巡らせることができる。数学の本を読めば、数式の美しさとそれを追い求める数学者の破天荒さにうっとりすることができる。 それでは、化学の本はどうだろうか。Amazonのカテゴリー別登録冊数を見ると、化学の7,051冊は物理学(5,971)、数学(7,051)よりも多いのだが、専門書が多く、幅広い人が楽しめる読み物は少ないように感じる。HONZでも化学がメインテーマの本は取り上げられていない。 そんな逆風の中、本書は真正面から化学(特に有機化学)の面白さを伝えてくれる稀有な一冊である。物質の構造を示す化学構造式は化学の魅力を伝えるために必要不可欠なのだが、どうも苦手にしてい