JINSEI STORIES 滞仏日記「数字からみる、日本のことが本当に心配な理由」 Posted on 2020/04/08 辻 仁成 作家 パリ 某月某日、20時に教会の鐘が鳴るのと同時に人々が窓から顔を出し、手を叩く。毎日、同じ人たちと顔をわせるのだけど、悲壮感があり、目があっても目を逸らされ続けてきた。となりのマダムだけが「こんばんは」と言ってくれていた。ぼくと息子はアジア人なので、仲間に入れてもらえないのか、と思って、でも、毎日、ぼくは窓を開け、命がけで働く医療従事者の皆さんへの感謝を込めて手を叩いていたのだ。するとむかいの建物の最上階に住む老夫婦がぼくにはじめて手を振ってくれた。かと思うと、その隣の建物の一つ下の階の若いご夫婦とそのお子さんがぼくに笑顔を向けてくれた。そして、いつもぼくと視線が合うと窓を閉めていた中年の男性が今日初めて、笑顔で、しかも手を振ってくれたのである。こ