本稿では、武力紛争や政治変動の連鎖によって国家機構が脆弱になり、それに伴って国境管理が揺らぎ、移民・難民やテロ、組織犯罪といった越境的な問題が交錯している状況を分析する。また、北アフリカのリビアに焦点を当て、「人の移動(migration)(注1)」と安全保障問題の交差によって生じる問題を明らかにする。 2010年末からの「アラブの春」を契機として、中東・アフリカから欧州を目指す人の移動は激増した。これにより、「欧州難民危機」、つまり大量の移民・難民が欧州連合(EU)諸国に押し寄せ、欧州域内で対応しきれず、政治的・社会的な混乱・変革が発生している状況や、また大規模かつ広範囲な移動の途上で多くの人命が失われる状況が発生した(注2)。 2017年以降、EUの国境管理や移民政策の厳格化を背景として欧州に渡る移民の数は減少している一方で、移民・難民を取り巻く環境は悪化していると指摘される。地中海を