平成19年の都知事選に、黒川紀章はなぜ立候補したのだろう。メディアはシボレーのキャンピングカーを改造した選挙カーやクルーザーを駆使した派手なパフォーマンスを話題にしたが、黒川氏が何を訴えようとしたのかは一向に伝えなかった。 功なり名を遂げた有名な建築家の戯れのようにさえ見えた。もちろん結果は惨敗だった。直後の参院選にも立候補、妻で女優の若尾文子さんも街頭に立ち「このままでは主人は蟷螂の斧になってしまいます。どうか当選させてください」と訴えた。が、これもまたあえなく落選、その3カ月後、この世を去った。 実は選挙戦の最終日、黒川氏は倒れて救急搬送されていた。末期がんだった。救急車の中で「みんなにもっと伝えなくちゃいけないことがあるのに」と何度も呟いていたという。 才気にあふれ、スタイリッシュで、政財界に華麗な人脈を持つ人物が、突然勝ち目のない戦いに突っ込んでいき、敗れ、死んだ。晩節を汚したとい