ムハンマドからウマイヤ朝、アッバース朝などの盛期に至るアラブの歴史は、わが国でも比較的よく知られている、と言っていいだろう。僕たちがいつも戸惑うのは、あの輝かしいイスラーム帝国の時代と、現代のアラブ社会の混迷振りとの著しい落差にある。その間隙を埋める意欲作が現れた。それが、本書である。 本書は、1516年のマルジュ・ダービク(アレッポ郊外)の戦いから筆を起こす。エジプトのマムルーク朝とオスマン朝が対峙した。勝利したオスマン朝のセリム1世は、エジプトを手に入れた。この時点から、アラブ世界はイスタンブールの支配を受けることになる。 本書は上下2巻から成る。上巻はオスマン朝の400年に及ぶ支配下のアラブ世界を描き出し、第1次世界大戦後の英仏の支配から、第2次世界大戦終結時までを取り扱う。下巻は、ナセルに象徴されるアラブ・ナショナリズムの台頭からその衰退、石油の時代を経て、冷戦崩壊後の現代(アラブ