自殺は、単に経済や医学の問題ではなく、フェイス(面目、体面、面子)の喪失、すなわちフェイス・ロスが大きく関わっているという、故・大村英昭氏と阪本俊生氏の議論である(『新自殺論 自己イメージから自殺を読み解く社会学』青弓社、2020)。 この理論によると、失業、貧困、病気、過労などの自殺リスクは、直接的に自殺数や自殺率に影響を与えるというより、これらの要因に伴うフェイスの喪失(=面目を失うこと)、他者からの承認が得られないことによるアイデンティティ崩壊、社会関係からの排除や孤立を媒介として、自殺数や自殺率に影響を与えるという。 この議論自体は、いっけん常識的にみえる。しかし阪本氏によれば、国際比較で見たときに失業率と出生率が相関しないという現象も、この理論によって説明できるという。 たとえば日本は欧米諸国に比べて失業率が低いが、自殺率は高い。なぜか。阪本氏は、次のように説明する。 「例えば、