戦前の「ヤクザ」を考える 藤野 裕子/早稲田大学文学学術院助教 相撲界や芸能界に顕著なように、近年、暴力団を社会から排除する動きが加速している。その一方で、そもそもなぜ暴力団が社会に存在してきたのか、という点が問われることはあまりない。その歴史的な経緯を戦前までたどってみると、現在の私たちが抱いている、“反社会的”な“アウトロー”集団というイメージとは大きくかけ離れた「ヤクザ」の姿が浮かびあがる。 実際、戦前の「ヤクザ」はすぐれて“社会的”で、“体制内化”された存在であった。社会面では、土木・荷役などの下層労働や芸能・相撲などの大衆娯楽を取り仕切り、民衆の生活に不可欠な役割を果たしていた。政治面でも、政党の外郭団体として組織され、政治体制のなかに組み込まれていた時期があった。 ここでは特に下層労働・政党との関係に焦点をあてて、戦前の「ヤクザ」の役割を概観してみたい。 下層労働に根ざす 戦前