「君は、無常や無我は事実の問題ではなく、認識の問題でもなく、畢竟じて言語の問題だと言ったな」 「言った」 「どういう意味だ」 「この世に事実そのものなど無い。あるのは『事実として認識されたこと』だけだ。そしてその認識は言語によって構造化されている。だから、無常も無我も言語の問題だと言ったのだ」 「たとえば?」 「無常を『一切のものが一瞬も留まることなく変化すること』と解釈しても、『変化』は『変化しないもの』=実体を前提にしない限り認識できないから、あまりに幼稚な解釈にしかならない。逆に主語に当たる『一切のもの』自体が変化するなら、『すでに変化しているものが変化する』という矛盾が生じる以上、何も変化しないことになる」 「『中論』の議論だな」 「そのとおり」 「他には?」 「全てものは要素の集合なのに、凡夫はそれを認識できずに、ものそれ自体が存在するように錯覚していると説いて、無我を説明する方