撮影:斎藤卓行 そこは365日が変わらない、極寒の冬地獄。 南極である。 季節のきの字も感じさせる気配はない。 真っ白な世界に真っ白な気温がよく似合う。 氷で周りを覆い尽くす、静かな堂々とした南極大陸だが、ここにもいたって暮らしはある。 そんな今日も南極の朝は始まるのだ。 「あなたー、起きてー」 かん高い声が家中に張り詰める。 氷点下85度の為いまにも息さえ凍りそうだ。 そこには寒いを通り越し、無の感覚を味わう男がいた。 アルミホイルでできたベッドから男は起き上がる。 名前は、イタム。 「ゔぁぁわぁぁぁぁ。もう朝か。今日も氷が美しいな」と、自分の睫毛にできたツララを取っていく作業から朝は始まる。 「あ、あなた起きた? あら、今日は唇あんまり紫じゃないじゃない? よかったわ」 妻のキサラズは旦那の体調を唇の色で管理していた。 「あぁ、なんだか今日は起きたとき無感だったよ。神経まで冷える日が続
「田中はやめたほうがいいです」 編集のO田川氏は開口一番にそう言った。都内某所の喫茶店で「魔法少女探偵アガサちゃん」の次話ネームを見せていた時だった。 「月刊少年ボウイ」のO田川氏はもう5年も僕の漫画を担当していて、それなりの信頼関係ができている。社交辞令的な褒め言葉は省いて単刀直入に打ち合わせを進めよう、というのが暗黙の了解だ。最近はネームを見せる前からO田川氏が不満を言いそうな点が予想できてしまうので、何を言われても大したダメージはない。だが、今回は一瞬コメントの意味がわからなかった。 「は? 田中?」 「この容疑者の女性、ホラ、田中久美恵さんって書いてるですか。名前、変えたほうがいいです」 「……ああ、それですね」 「魔法少女探偵アガサちゃん」は、コミカルな女子中学生が魔法で事件を解決するミステリ漫画。今回は温泉回だ。露天風呂で宿泊客の遺体が発見され、警察は火山ガスによる事故だと判断
角川スニーカー文庫から、『ロードス島戦記』シリーズの12年ぶりとなる新作小説『ロードス島戦記 誓約の宝冠1』が8月1日に発売されます。 『ロードス島戦記 誓約の宝冠1』(著・水野良/イラスト・左) 1988年に水野良氏により誕生した小説『ロードス島戦記』は、エルフや魔法といった世界観を根付かせた、日本ファンタジーの始祖にしてライトノベル黎明期の大ヒット作。シリーズ累計は1000万部を突破し、小説以外にもコミックやテレビアニメなど、さまざまなメディア展開で多くの人々から愛されています。 今回の新シリーズでは、真の平和へと至った「ロードス島」の100年後、戦乱を駆ける王子と伝説のハイエルフの旅が描かれます。また今作から、イラストレーター・左氏がイラストを担当します。 左氏が新シリーズのイラストを担当 ニコニコ生放送では、新シリーズ刊行を記念したアニメ一挙放送を配信。7月29日には「『ロードス島
『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』でも知られる三方行成氏による短篇「流れよわが涙、と孔明は言った」を無料公開します。どこに着地するのか誰にもわからない物語をお楽しみください。(編集部) 『流れよわが涙、と孔明は言った』書籍版 流れよわが涙、と孔明は言った 孔明は泣いたが、馬謖のことは斬れなかった。 硬かったのである。 「どういうことだ……」 孔明はうめいた。首切り役人もうめいた。馬謖もうめいていた。 概ね、同じ理由でうめいていた。 馬謖の首が落ちない。 首切り役人が斧を振り上げ、打ち下ろした。 がん、と岩を打ったような音に続いて、金属の音が響く。 汗みずくの首切り役人が斧を取り落としたのだ。 孔明は首切り役人を下がらせた。 次を呼び寄せる。 三人目である。 人の首は硬い。一刀のもとに断ち切るのは見かけほどたやすくない。だが、それにしても異常であった。 孔明は馬謖を見た。 馬謖はも
今さらセカイ系(笑)の出来損ないみたいな90年代ラノベ引っ張りだしたところで、ガキが食いつくわけもないと分かりきってるのがクソ。どうせ昔のファンも大半はとっくに趣味変わってるだろ。 無意味に時間が行ったり来たりするのがクソ。カッコイイとでも思ってんのか?分かりにくいだけだわアホ。 キャラデザ全員モブ過ぎて誰が誰だか分からないのがクソ。ブギーポップは分からない(爆笑) ラノベ業界もそろそろ弾切れで苦しいのは分かるけどさあ、さすがにこんなもん引っ張り出してくるぐらいなら、他にもっといい原作あるだろ。たとえば……お留守バンシーとか! そこまで打ち込んだところで〝増田〟は確認画面に進み、実際に表示される際の見え方をチェックする。特に問題のないことを確認して「この内容を登録する」ボタンをクリックした。 大きく息を吐き、しばし目を閉じて時間が過ぎるのを待つ。ヘッドホンからは、路地裏の秘密クラブについて
トランスヒューマンガンマ線バースト童話集 作者: 三方行成,シライシユウコ出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2018/11/21メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログを見る第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作がこの三方行成『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』である。意味不明に強い書名から連想される通りに、シンデレラや竹取物語といった童話が、もし人間が科学技術によってその姿を変質させたトランスヒューマン時代に語り直されたら──さらには、その話の最後に、”ガンマ線バースト”が世界に降り注いで無茶苦茶になったら──という、どうしてそうなったかわからないが、とにかくそうなってしまったというような状況を描く奇作である。 本作はもともと投稿小説サイトカクヨムに投稿されており、すでに「変だけどおもしろい小説があるぞ!」と一部で盛り上がっていたので、質としては受賞前から保証
新作『そいねドリーマー』の発売を記念して、2018年5月のSFセミナーにて行われた伝説のインタビュー「百合との遭遇2018」採録を公開いたします。 (9/13追記:続篇を公開しました) 宮澤伊織『そいねドリーマー』 (2021年追記:現在は文庫版が刊行されています) ■覚悟宮澤 こんにちは、宮澤伊織と申します。昨年にハヤカワ文庫から『裏世界ピクニック』を出したことで、本日ここに呼んでいただきました。 ——『裏世界ピクニック』は、この世界の〈裏側〉に謎だらけの異世界が広がっていて、そこを女子ふたりが探検していくというSFサバイバルホラー小説です。SFやホラー要素はもちろん、この「女子ふたり」という部分も大変な好評をいただけて、シリーズ化して現在2巻まで刊行されています。 宮澤 百合好きの方々にも喜んでいただけて嬉しく思っています。 ——はい。ということで今回の「百合との遭遇」は、宮澤さんが小
ぐれ @guleukara 文字の起源から未来をファンタジーで綴るという触れ込みなんですが、フックが弱そうなので補足情報として 「日本語の揚げ足をとる」作家、円城塔の本気の「ことば遊び」|WIRED.jp wired.jp/2015/12/28/int… Unicodeに縛られてるぞ人類、みたいな話 2018-08-14 18:05:28 ぐれ @guleukara これは"誤字"という話の一部なんですけど、開いた瞬間「何処からどうやって読むんだこれ」ってなるんですよ。オープンワールドゲーム初めてやった人みたいな投げ出され具合が似てる。ルビが振られてるとその読みはルビが正しいと思ってしまうけれども、もっと自由に読めやボケみたいな感じですね 2018-08-14 18:14:52
気に入った表現があれば近傍の作品名と作者を片っ端からチェックだ! 拒絶反応が出そうなら無理に読もうとするな…安静にしろ…(レビューとしてそれはどうなんだ 私もすべてが分かる訳ではないのですが、作品名や作者についてかなり言及してくれているので年季の入ったファンだけではなくこれからジャンルに足を踏みいれようとする御仁にとって良質で油断ならないガイドブックにもなりえる、それなのに面白い! 積んでいる本が出てくると手を伸ばす切っ掛けになるかも? SFを手に取ってしまう人にとって、タチの悪い夢を見せられている様な、なんだぁ…これはぁ…これは酷ぉい…(恍惚)最高ダァ… まだこのジャンルを知らないなら…続きを読む
今月上旬発売の『SFが読みたい! 2018年版』で発表された、 プロの投票で決まる2017年のベストSFランキングを特別公開します! BEST SF 2017[国内篇]1『自生の夢』飛浩隆/河出書房新社…399 2『ゲームの王国(上・下)』小川哲/早川書房 …347 3『公正的戦闘規範』藤井太洋/ハヤカワ文庫JA…274 4『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』赤野工作/カドカワBOOKS …187 5『あとは野となれ大和撫子』宮内悠介/角川書店 …167 6『横浜駅SF』柞刈湯葉/カドカワBOOKS ……137 7『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』宮澤伊織/ハヤカワ文庫JA…128 8『ここから先は何もない』山田正紀/河出書房新社…94 9『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』荒巻義雄/彩流社…81 10『BLAME! THE ANTHOLOGY』九岡望、小川一水、野﨑まど、酉
コルヌトピア 作者: 津久井五月出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2017/11/21メディア: 単行本この商品を含むブログを見る本書『コルヌトピア』は第五回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作二作の内の一作。180ページあまりの短めの長篇で、欠点といえるようなものも挙げられるけれども、破綻なくまとまっており、本書で示されるヴィジョンと才能は紛うことなき本物だ。大賞のうちのもう一作『構造素子』がデビュー作にして練りに練られたいきなりの傑作であることを考えると、こちらの方がむしろ新人のデビュー作らしいとはいえる。 都市の情景の素晴らしさ 物語の舞台となるのは、植物の細胞で情報を読み書きできる技術の発明によって、植物コンピュータが生まれた2084年の未来。計算能力の高さはそのまま莫大なアドバンテージに繋がる。研究は進み、地中に埋設した連絡根毛によって植生を電気的に接続し、植生全体を環境センサを
第157回芥川賞と直木賞の選考会が19日夜、東京で開かれ、芥川賞に沼田真佑さんの「影裏」が選ばれました。 また直木賞に佐藤正午さんの「月の満ち欠け」が選ばれました。
ここ三十年ほど、無心に小説を読むことが少なくなった。テレビ局のドラマのプロデューサーになってから、これはドラマ化できるだろうか、という邪念がついつい頭をよぎる。 だがそんな邪念がいつの間にか吹き飛ばされ、夢中になって心躍らせた作品もある。この作品が生まれた時に作家の思い浮かべた光景を僕も目の当たりにしたい。心打たれた登場人物に生で出会いたい。そんな思いから自分が映像化に関わった二つの新潮文庫作品をご紹介したい。 その一つは、山崎豊子先生の『華麗なる一族』である。欲望と理想の相克という近代ビジネスのパートと、原始的な嫉妬が家族間で濃密に織りなされるパートの双方に身体が震える大傑作である。映像化に当たっては、圧倒的なモンスターである万俵大介を描くために、原作ではそこまで大きくない悲劇の男、万俵鉄平を主人公に据えようと考えた。テレビのお客様に感情移入させるには、等身大の人物が必要だ。魑魅魍魎が跋
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