岩井俊二監督の新作映画『キリエのうた』は、アイナ・ジ・エンド演じる路上ミュージシャン・キリエが雪原に埋もれて寝そべりながら歌うシーンから始まる。 冒頭から、真っ白なその光景の美しさと、どこか現実から疎外されて聴こえる歌声の鮮烈な響きに胸を掴まれた。単に歌が上手いというだけではない。ハスキーな歌声には一度聴けばそれとわかる強い記名性がある。そこに、特別な何かがある。それが本作の魅力を牽引している。 岩井俊二自ら「音楽映画」と位置付ける本作では、『スワロウテイル』(1996年)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)に続き、音楽家 / 音楽プロデューサーの小林武史が主題歌と劇中音楽を手掛けている。主演は今作が映画初主演となるアイナ・ジ・エンドだ。 岩井俊二監督のインタビューによると、原型となる物語を執筆しているときにアイナ・ジ・エンドのことを知り、その存在に大きく触発されたことが制作のきっ