王座を降りた村長は暮らしていけるのか 敗北から数カ月後、敏和は得意の語学力を活かし、島で週1回の韓国語講座を始めた。新聞の折り込みチラシで呼びかけると13人の応募があった。 「人口2000人の村で13人も集まるということは、2万人の町なら130人──と同じことでしょう。これはすごいことです」 一方、島の人たちは喜寿を間近に控えた村長の「老後」を心配している。昭夫は30代で東京からUターンして以来、「普通の人」として暮らした経験がないからだ。 島を出る時はフェリーの特別室に1人で座り、対岸に置かれている運転手付きの公用車で行動してきた。四半世紀以上、フェリーの切符を買ったことも、一般席に座ったこともない。 「村長を辞めて、役場の職員を召し使いのように使えなくなったら、暮らしていけないんじゃないか」 そんな声もある。 仮に次の選挙で敗れても、適任者を見つけて禅譲しても、積年の埃《ほこり》は出て