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ブックマーク / user.keio.ac.jp/~rhotta (10)

  • #5408. 3人称代名詞はゲルマン祖語の共通基語に遡れない

    英語の3人称代名詞 he, she, it, they (各々は主格の形)の屈折体系は現代でも複雑なほうだが,歴史的にも相当にかき混ぜられてきた経緯がある.対応する古英語の主格形を挙げれば,それぞれ hē, hēo, hit, hīe となるが,見た目だけでも現代との差が大きいことが分かる (cf. 「#155. 古英語の人称代名詞の屈折」 ([2009-09-29-1])). ゲルマン諸語の人称代名詞体系を比べると,全体として類似しているとはいえ,とりわけ3人称の個々の格形については,必ずしも同一の語源に遡るわけではない.ましてや印欧祖語まで遡らせることもできない.つまり,1つの共通基語を再建することができないということになる.3人称代名詞は,この点で1,2人称代名詞や,指示詞,疑問詞などとは事情が異なる.Lass (139) より関連する説明を引用しよう. Proto-Germanic

  • #1271. 日本語の'''唇音退化'''とその原因

    [2012-02-12-1]の記事「#1021. 英語と日語の音素の種類と数」で軽く言及したのみだが,日語は通時的に唇音退化 (delabialisation) を経たとされている.現在のハ行の子音は,かつては [p] だったという説である.[p] が摩擦音化し,さらに摩擦そのものが弱くなり,調音点が [h] へと後退したという.異論もないわけではないが,今や学界ではほぼ定説として受け入れられている. [p] > [f] の変化といえば,英語史(正確には印欧語史というべきか)におけるグリムの法則 (Grimm's Law; [2009-08-08-1]) がすぐに想起される.ただし,グリムの法則の示す変化は,調音点においても調音様式においても,広範かつ体系的であり,単発の日語の唇音退化とは性質が大きく異なる.しかし,[2012-05-22-1]の記事「#1121. Grimm's L

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    masa8aurum 2024/02/11
    唇音退化(〔p〕→〔F〕→〔h〕)は骨骼と関係があったのでは説
  • #480. ''father'' と'''ヴェルネルの法則'''

    ヴェルネルの法則 ( Verner's Law ) については,[2009-08-09-1]の記事で hundred という語を用いて説明した.多くの参考書では Verner's Law の説明に father が用いられているので,今日は father を用いた教科書的な記述を試みる. Verner's Law は,語によってグリムの法則 ( Grimm's Law ; see [2009-08-08-1], [2009-08-07-1]) の予想に反する形態が出力されてしまう問題に対して,印欧祖語の段階でのアクセントの位置を考慮することで解決を図ろうとして見つけだされた法則である.「父」を表わす印欧祖語の再建形は である.語頭の *p は Grimm's Law に従ってゲルマン諸語へは f として伝わった.古英語の形態は fæder であるから,これについては法則通りである.だが,第

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    masa8aurum 2024/02/11
    音が ð → d → ð と回帰することもあるんだな
  • #211. '''spelling pronunciation'''

    spelling pronunciation 「綴り字発音」についてはブログでも何度か触れてきた. 綴り字発音は「綴字に合わせて,歴史的,伝統的,標準的な様式とは異なる様式でなされる発音」として定義される.現代英語で often の発音に起きている変化が代表的な例である.この語は従来 [ˈɔ:fn] と発音されてきたが,近年では [ˈɔ:ftən] と <t> を発音する方向へ変化しつつある.「書かれているのだから読もう」という素直な発想に基づく発音変化である. 他には,accomplish がある.これは従来 [əˈkʌmplɪʃ] と発音されてきたが,近年の米語では [əˈkɑ:mplɪʃ] と発音されるようになってきている.<om, on> という綴字における母音は,some や company にみられるように,歴史的には [ʌ] と発音されてきたが,stop や Tom などの

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    masa8aurum 2024/01/20
    spelling pronunciation 「綴り字発音」
  • #379. ''often'' の '''spelling pronunciation'''

    綴り字発音 ( spelling pronunciation ) については,[2009-11-24-1]や[2009-11-25-1]の記事で取り上げてきた.現代英語の spelling pronunciation の代表選手としてよく取り上げられるのが often である.この語の伝統的な発音は BrE では [ˈɒfən] と発音されるが,[ˈɒftən] と [t] を発音するものも聞かれる(いずれも第1音節の母音は変異しうる).AmE でも同様で,[t] を読む発音が聞かれる.LPD によると,多くの話者が [t] を読まない発音と読む発音の両方をもっているとされる.BrE と AmE での Preference poll の結果は以下の通り. いずれの変種でも,[t] を発音するのは 1/4 程度で少数派のようだ.ただ,これは静的な調査なので,これだけでは今後の行方については不

    #379. ''often'' の '''spelling pronunciation'''
    masa8aurum
    masa8aurum 2024/01/20
    ・oftenのtの発音が復活してきている? ・イギリス英語では22%、アメリカ英語では27%の人が "often" を [t] ありで発音している
  • #3925. 電子メールの返信で用いる引用の ">" は,実は中世の句読記号

    受け取った電子メールの文章を,返信メールなどで引用する際に,各行頭に不等号記号の「大なり」 ">" ("right angle bracket" or "greater than") を付す慣行が定着している.この慣行は各種のマークアップ言語でも応用されており,ネット時代において新しい句読点の用法が発達してきたことを物語るものである. しかし,驚くなかれ,テキスト引用のための ">" の用法は,実は中世に起源をもつのである.当時,">" に近い形の "diple" と呼ばれる記号があった.これは引用されるテキストの開始を示す記号として用いられたが,後に現代的な引用符 (quotation mark) へと発達した.diple そのものは廃用となり,忘れ去られたかと思いきや,現代のネット時代に新たな生命を吹き込まれたというわけだ(cf. 関連して「#1097. quotation marks

    masa8aurum
    masa8aurum 2023/04/02
    “当時,">" に近い形の "diple" と呼ばれる記号があった.これは引用されるテキストの開始を示す記号として用いられた”
  • #51. 「5W1H」ならぬ「6H」

    現代にまで生き残っていないのは,男・女性対格の hwone だけである. その他の疑問詞についても,wh- に後続する部分は特定の意味をもつ.which は 「who + like ("body")」の縮まった形態,when は「?のとき」(cf. then ),where は「?の場所で」(cf. there, here ),whence は「?の場所から」(cf. thence, hence, once ),whither は「?の場所へ」(cf. thither, hither ),whether は「二つのいずれか」(cf. either ) である. 次に how だけが h- で始まるという問題について考えよう.古英語の屈折表を見てわかるとおり,古英語では疑問詞は wh- ではなく hw- で始まった.しかし,中英語期になって,<wh> というフランス語の綴り字習慣が英語にも取

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    masa8aurum 2023/03/17
    疑問詞のうち what, whose, whom, why は、古英語 hwā/hwæt に由来する
  • #783. 副詞 ''home'' は名詞の副詞的対格から

    現代英語の名詞には副詞的目的格という用法がある.目的格は歴史的な対格を指すので,この用法は副詞的対格 (adverbial accusative) とも呼ばれる.名詞(句)が副詞(句)として用いられる副詞的目的格の使用例は枚挙にいとまがないが,典型的な例を少数挙げると以下のようなものがある(赤字が副詞的目的格におかれている名詞(句)). - It's fine today. - Come this way. - They walked ten miles. - We are united to each other heart and soul. - What the hell is all this? 現代英語で当たり前のように副詞的に使われている go home も起源をたどれば名詞 home の目的格にすぎない.古英語 hām は男性強変化名詞であり,単数主格と単数対格が同形のために

    masa8aurum
    masa8aurum 2022/12/20
    "today", "Come this way." のやうな副詞は、名詞の副詞的対格から来てゐる
  • #2042. 方言周圏論の反対

    「#1045. 柳田国男の方言周圏論」 ([2012-03-07-1]),「#1000. 古語は辺境に残る」 ([2012-01-22-1]),方言周圏論を含む他の記事で,言語革新の典型的な伝播経路とその歴史的な側面に言及してきた.中心的な地域はしばしば革新的な地域でもあり,そこで生じた言語革新が周囲に波状に伝播していくが,徐々に波の勢いが弱まるため周辺部には伝わりにくい.その結果,中心は新しく周辺は古いという分布を示すに至る.互いに遠く離れた周辺部が類似した形態をもつという現象は,一見すると不思議だが,方言周圏論によりきれいに説明がつく. 以上が典型的な方言周圏論だが,むしろまったく逆に中心が古く周辺が新しいという分布を示唆する例がある.日語のアクセント分布だ.日の方言では様々なアクセントが行われており,京阪式アクセント,東京式アクセント,特殊アクセント,一型アクセント,無アクセント

    masa8aurum
    masa8aurum 2021/10/27
    ・方言周圏論(中心部が新しく周辺部が古い)は日本語アクセントには当てはまらず、中心部が古形を保持している
  • #3409. 日本語における合拗音の消失

    合拗音とは古い日語で「クヮ」「グヮ」などと表記された [kwa, gwa] 音のことである.もともと日語には合拗音なる音はなかった.漢語とともに漢字音としての合拗音が導入され,中世前期に日語の音韻へ取り込まれていったものである.しかし,近世後期になると,日語の来的な音韻へ回帰するかのごとく,再び合拗音が消滅するに至った.かつての合拗音「クヮ」「グヮ」は,直音「カ」「ガ」へ合一している. 沖森 (319--20) によれば,合拗音の直音化の時期については方言差があった. 合拗音のクヮ [kwa]・グヮ [gwa] は,「火事」をクヮジ,「因果」をイングヮというように漢字音において用いられてきたが,この時代において直音化してカ [ka]・ガ [ga] となった.上方語と江戸語ではその変化の時期は異なっているが,前掲の『浮世風呂』(二・上)に見える,上方と江戸の女性が言葉について言い争

    masa8aurum
    masa8aurum 2021/10/15
    “日本語のウラルアルタイ語的性格を表わすものと言われる2重子音の忌避の1例として説明することができる(『日本語百科大事典』 pp. 256--57) ”
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