取材ノート ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。 「一寸先は闇」の永田町に、不思議な癒しの空間がある。凄まじい権力闘争の政治ドラマを演じてきた自民党本部内、階段を二階に上がった右側奥手前の、事務総長室である。部屋の主の名前は元宿 仁(もとじゅく ひとし)74歳で、文字通り党の事務方のトップを担う。政治ドラマの舞台にもなったこの部屋を、癒しの空間にさせているのが、壁に掛かる一幅の大きな油絵である。 「もらい湯」と題したその油絵は、日曜画家である元宿本人が描いたもので、20年近く前に初めて見た時、深い感銘を受けた。雪と月明かりが照らす寒い夜、隣の家でお風呂に入れてもらい、田んぼの畦道を通って帰る幼い4人兄弟の姿を描いている。ふる里の群馬県川場村では、戦後間もない貧しかった当時、薪を節約するために「もらい湯」の風習が残っていた。若くして亡くな