[#ページの左右中央] Es irrt der Mensch, solang er strebt. [#改ページ] 自序 此類の書は序文なしに出版せらる可き性質のものではない。自分は自分の過去のために、小さい墓を建ててやるやうな心持で此書を編輯した。自分は自分の心から愛し且つ心から憎んでゐる過去のために墓誌を書いてやりたい心持で一杯になつてゐる。 此書に集めた數十篇の文章は明治四十一年から大正三年正月に至るまで、凡そ六年間に亙る自分の内面生活の最も直接な記録である。之を内容的に云へば、舊著「影と聲」の後を承けた彷徨の時代から――人生と自己とに對して素樸な信頼を失つた疑惑の時代から、少しく此信頼を恢復し得るやうになつた今日に至るまでの、小さい開展の記録である。自分は自分の悲哀から、憂愁から、希望から、失望から、自信から、羞恥から、憤激から、愛から、寂寥から、苦痛から促されて此等の文章を書いた