「生きた伝説」という言い方はクリシェだけれど、灰野敬二というミュージシャンほど、この言葉にふさわしい存在はいない。今年、還暦を迎えたこの音楽家は、間違いなく、世界中を見回してみても比肩する者のない、稀有にして偉大な、そして謎に満ちたアーティストである。この映画は、そんな「生きた伝説」の意外(?)な素顔に迫った、ユニークなドキュメンタリーだ。 伝説というからには、そこにはおのずから、神秘的な色彩が生じてしまう。実際、灰野敬二には、その風貌や言動も含めて、強烈な神秘性が否応なしに纏い付いている。そのライブは、一種、儀式めいた張り詰めた空気が支配しており、ソロや不失者、静寂といったバンドを従えて、唯一無二の音を奏でるその姿は、さながら司祭のようである。だから灰野敬二のドキュメンタリー映画と聞いた時、僕がすぐさま想像したのも、やはり極度に神秘的な雰囲気だった。それは無理からぬことだったろう。たとえ