「善児、なんで泣いてたの?」――これはフラグなのか。 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にはどうやら定石があるようだ。本作で自身の意図と違う形で死んでいく者たちは、皆、最期に善き人の顔を見せる。伊東親子(浅野和之、竹財輝之助)も上総広常(佐藤浩市)も源範頼(迫田孝也)も梶原景時(中村獅童)もそうだった。とすると、次にその定石に飲み込まれるのはこの男かもしれない。 善児(梶原善)。まるではなから人の心など持たぬように、鎌倉の謀殺で暗躍してきた下人である。わたしたちが最初にこの男の恐ろしさに触れたのは物語の序盤。善児が当時仕えていた伊東親子の命令で、源頼朝(大泉洋)と八重(新垣結衣)の子・千鶴丸を川遊びに連れ出し、その幼い命を奪ったと確信した時だ。それ以降もこの男が濁った泥のような目で「へえ」「やっちまいますか」と躊躇なく人を殺めていくさまから、番組のオープニングクレジットに「善児」の名がある