非国民文学論 [著]田中綾 非国民文学の概念は、国民文学(吉川英治、司馬遼太郎ら)と対峙する意味か、あるいは非国民とされた文筆家や作品の内容を指すのか、に二分される。著者は後者として捉える。あえて「反戦の文学」といった評価軸とは一線を画して論を進めている。 帝国臣民としての兵役を拒まれたハンセン病患者・明石海人(かいじん)の歌集、一人息子を徴兵忌避者とした金子光晴の『詩集三人』、丸谷才一の『笹まくら』をもとに検証していく。明石は自らの身は療養施設に拘束されても、精神は想像力の中にあるとする。しかし日中戦争に出征していく看護師・職員を歌う戦争詠には、我が身を顧みて、「おそれかしこまる」心理があると分析する。想像力と現実の心理の葛藤を読み解くのだ。 本書は他のハンセン病患者の和歌も確認しながら、自分のために誰かが犠牲になったという心理に着目する。そのうえで患者や徴兵忌避者は、非国民として〈書く