ライオンの頭を持つ戦の女神セクメト、ジャッカルの頭を持つ冥界の神アヌビス、ウシの角をつけた女神ハトホル……。古代エジプトには動物の神が数多く存在した。 その信仰の起源は、はるか昔にさかのぼる。肥沃なナイル沿岸に暮らしていたエジプトの人々は、そこにいる動物たちについて深い知識を持つようになり、やがてそうした動物たちを神の領域へと持ち込んだのだろう。エジプト初期王朝の黎明期、紀元前3100年ごろには、神々は動物の姿を取るようになっていた。 エジプトの神々の世界は、混沌として見えるかもしれない。しかし忘れてはならないのは、エジプトの宇宙観が数千年をかけて形成されたものだということだ。時とともにエジプトを支配する王国が入れ替わる中、神々も移り変わり、進化し、ときに混ざり合った。