前から気になっていた朝吹真理子「きことわ」(『文藝春秋』20011年3月号)を読んだ。まず思い浮かんだのは、「キュビスム」と「怪談」というキーワードだった。 花田清輝氏はどこかで、西洋のシュルレアリスム絵画をわざわざ追い求めなくても、日本には妖怪の絵がすでにあるではないかという趣旨のことを書いていたと記憶する。 それを念頭に置いて言えば、朝吹真理子「きことわ」は、ある種の怪談を西洋絵画的な手法で描いているのではないかという気がする。 芥川賞選評で、この作品について、池澤夏樹氏は、「いくつもの時や光景や感情がアニメのセルのような透明な素材に描かれ、それを何枚も重ねて透かし見るような、しかもその何枚もの間に適切な間隔がおかれて空気遠近法の効果があるような、見事な構成」と評しているし、山田詠美氏は、「後ろ髪を引かれる事柄について書かれた小説は数多くあれど、後ろ髪を引くものそのものを主にした小説は