「建築界のノーベル賞」と言われるプリツカー賞を受賞した山本さん。世界中で調査した住宅を紹介しつつ、コミュニティー作りを意識した建築を行ってきた思いを語ります。
大江健三郎の小説を特徴づけるのは、何よりもその異様な文体である。ときに暗く低いうめき声をあげながら、うごめき、とぐろをまき、立ち止まり、また動き始めるミステリアスな生き物のような文体は、こちらを当惑させるほどに粘っこい。大江の小説は、ある事柄を高所から鮮明にするというよりは、その粘っこい運動のなかで、過去の記憶や未来のサインを手探りするようにして進む。それでいて、彼の文体はぼやけた不正確なものではなく、暗い欲動をしぶとく引っ張り続けるような独特の力をもつ。分析することではなく持続させること――それが大江の文体が志向するものである。 この異様なスタイルはどこから生まれたのだろうか。大江は《戦後》の時空間から出てきた作家であり、本人も戦後文学の系譜を強く意識していた。大江の小説は戦後日本のコンテクストに根ざすことによって、かえってその特殊なコンテクストを突き抜けた普遍性を得たと言えるだろう。一
私は村上春樹の小説を比較的熱心に読んできたほうだと思うが、特に2010年前後に出た『1Q84』三部作以後の作品には、毎度首をかしげざるを得なかった。なぜこの小説が書かれねばならなかったのか、その動機やコンセプトが判然としないまま、いかにも村上春樹的なキャラクターが村上春樹的な性愛と村上春樹的な壁抜けをひたすら擦り切れるまで反復するばかり――しかも、文体はかつての弾力性やスピード感を失い、キャラクターも総じて精彩を欠く。宇野常寛もnoteの記事(『街とその不確かな壁』と「老い」の問題ーー村上春樹はなぜ「コミット」しなくなったのか(4月17日追記))で同じようなことを書いているが、私も村上のこの低調な自己模倣モードには耐え難いものを感じていた。 むろん、以前の作品と似ていることが一概に悪いわけではない。例えば、小津安二郎の映画は毎回どれも似たようなキャラクターばかり登場するが、それでも十分面白
シーリムで暮らしていたときから本は好きだった。シーリムは現代日本のようなすぐれた印刷技術と物流をもった世界ではない。国に一つだけある図書館を出入りできる者は限られていたが、俺の場合、特別な許可が与えられていた。 王都壊滅の危機を救った際の報酬として、本の閲覧許可を求めたのだ。その程度の報償では波風が立つと言われ、爵位を与えられたが、面倒なだけだった。 力が覚醒する前の俺は忌み子としてあつかわれていたから、村でいつも一人で過ごさなくてはいけなかった。そんなときに心の支えとなったのが英雄達の冒険譚だ。大昔の偉大な英雄たちの伝承はいつも俺に生きる希望を抱かせてくれた。知恵と勇気で苦難を乗り越え、最後には人々を救って賞賛を手に入れる。そういう剣と魔法の話が好きだったから、今もよく読んでいる。スマートフォンで。 「なあ、ちょっとお前、立ってみて」 スマートフォンでネット小説を読んでいたら声をかけられ
ーーなぜ、今回、新型コロナの話を真正面から物語に取り入れたのでしょうか? 実は当初は全く違う話を想定して、次の小説の構想を練っていました。 でも、準備をしていた別のプロットで小説を書こうとした矢先に、コロナの問題が大きくなって…突然のことに面食らいつつも、やっぱりこの問題をいま無視して書くことはできないんじゃないかと思ったんです。 自分自身、生活をする中で、すごくコロナの状況が気になっていましたし、Twitterを開けばコロナについて調べているような状態で。何よりも自分が今、コロナに興味を持っていた。だったら、その問題を絡めた小説を書きたいと思い、1から新しいプロットを書き始めました。 ーーこれまでも東日本大震災からの経験から『持たざる者』という小説を書かれています。社会を大きく揺るがす出来事を積極的に小説に取り入れていらっしゃいますね。 振り返って見たときに、2011年の東日本大震災と原
●RYOZAN PARK巣鴨で保坂和志の小説的思考塾vol.7(以下は、ぼくの主観や解釈が---おそらく勘違いなども---入っていて、正確なレポートではないです)。 今回は、いくつかの実例が示されながら、けっこう実践的なことが語られた。たとえば、村上春樹の「ウィズ・ザ・ビートルズ」(「文學界」八月号)という小説の一部が引用され(僕はこれを読んでいないが)、その細部が批判的に検討される。1964年に高校生だった語り手の《僕》は、学校の廊下で「ウィズ・ザ・ビートルズ」というLPレコードを《大事そうに胸に抱えてい》る《彼女》とすれ違う。そして《僕》の記憶ではそのレコードは、日本国内盤でも米国盤でもなく、英国のオリジナル盤であることが《はっきりしている》、と書かれる。 しかし、まず第一に、1964年当時、日本ではロックは一般的にシングルレコードによって受容されていて、アルバムとして聴かれるのは一般
「LGBTは子どもを産まないため生産性がなく、彼らに税金を投入するのはおかしい」という主旨の寄稿をした国会議員がいた。 この意見は差別だし真っ当な反論は各所でされている。でも、その議員には別の質問もしてみたい。もし次のように訊いたら、なんと答えるだろう。 「たしかにLGBTって生産性がないですよね。でも、ヘテロの男女家族も、生産性低くないですか?だから、人工授精の研究を進めて、家族とか結婚とか関係なく子どもが生まれる、生産性の高い社会を目指しませんか?」 村田沙耶香の小説「消滅世界」は、そんな「高い生産性」が実現した社会の物語である。2018年の7月に文庫化されて読んだらめちゃくちゃ面白かったので、これは同書の紹介と、考えたことについての記事。 目次 繁殖が性愛と分離した社会 家族は無数にある動物の繁殖システムのひとつ 奴隷の幸福と失楽園 世界全体から愛されなくてもいい自由 繁殖が性愛と分
名探偵・浅見光彦シリーズで知られる人気作家、内田康夫(うちだ・やすお)さんが13日、敗血症のため東京都内で死去した。83歳。葬儀は近親者で営んだ。お別れの会は行わず、3月23日~4月23日、長野県軽井沢町の浅見光彦記念館に献花台が設けられる。喪主は妻で作家の早坂真紀(はやさか・まき、本名・内田由美=うちだ・ゆみ)さん。 東京都北区出身。東洋大中退。テレビCM制作会社を経営していた1980年、自費出版したミステリー「死者の木霊」が編集者、評論家らの注目を浴びて作家デビューした。3作目「後鳥羽伝説殺人事件」(82年)で浅見光彦が初登場。「天河伝説殺人事件」(88年)「氷雪の殺人」(99年)など、警察庁刑事局長を兄に持つルポライターで年を取らない永遠の33歳、愛車ソアラを転がして全国各地で起きる事件の謎を解くキャラク…
小谷野敦『芥川賞の偏差値』で、最高ポイントの偏差値72を獲得した、村田沙耶香「コンビニ人間」。「いったい芥川賞に何が起きたのか」「つまらない小説に授与するのが芥川賞の伝統なのに、選考委員どうしちゃったんだ」との、小谷野節による大賛辞が送られた。 小谷野氏曰く、「「コンビニ人間」を読んだらあまりに面白いので手あたり次第に村田の本を読んだくらいである。概して初期の、少女のやや異常な性を描いたものがよく、三島賞をとった『しろいろの街の、その骨の体温の』が良かった」。 これを受けて、村田氏に小谷野氏からのいくつかの質問に答えていただいた。「自分には勿体ないようなお言葉を頂戴して恐縮ですが、過去の作品にも触れてくださってとてもうれしかったです」と、村田氏。
ジェイムズ・ジョイスやルイス・キャロルの翻訳で知られる英文学者で翻訳家の柳瀬尚紀(やなせ・なおき)さんが7月30日、肺炎のため東京都内の病院で死去した。73歳だった。葬儀は近親者で行った。喪主は妻由美子さん。 北海道根室市生まれ。言葉遊びが随所にちりばめられて「翻訳不可能」とも言われたジョイスの小説「フィネガンズ・ウェイク」を8年がかりで訳して話題を集めたほか、キャロル「不思議の国のアリス」、ロアルド・ダール「チョコレート工場の秘密」などを手がけた。近年はジョイスの大作「ユリシーズ」の全訳完成を目指していた。 将棋ファンとしても知られ、羽生善治さんとの共著もある。朝日新聞で2000年4月から約4年間、「柳瀬尚紀の猫舌三昧(ざんまい)」と題してエッセーを連載した。
第155回芥川賞を「コンビニ人間」で受賞した村田沙耶香。 彼女が直木賞作家の西加奈子や朝井リョウ、加藤千恵ら作家仲間から「クレイジー」と呼ばれていることは、今回の受賞報道などでも取り上げられていた。だが、10人産んだら、1人殺せる「殺人出産」システム(『殺人出産 』)や夫婦間のセックスが「近親相姦」としてタブー視される世界(『消滅世界』)といった小説の作風だけでそう呼ばれるのではない。 では、村田沙耶香はどのように「クレイジー」なのか。 これまで彼女がメディア出演したニッポン放送『朝井リョウ&加藤千恵のオールナイトニッポン0』(15年12月18日放送)、若林正恭司会で加藤千恵とともにゲスト出演したBSジャパン『ご本、出しときますね?』(16年4月29日放送)、若林と本谷有希子と鼎談したフジテレビ『ボクらの時代』(16年5月22日放送)の中で明かされたエピソードを振り返ってみたい。 週3日コ
4月23日(土)より、TVアニメ『響け!ユーフォニアム』シリーズを振り返る内容となる『劇場版 響け!ユーフォニアム~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』が全国ロードショーされる。 『響け!ユーフォニアム』(以下「ユーフォニアム」)は、2015年4月から7月にかけて放送された、京都アニメーション制作のTVアニメ。主人公・黄前久美子をはじめとした吹奏楽に情熱を傾ける高校生たちの青春群像をリアルに描き、多くのアニメファンの心をつかんだ人気作だ。 劇場版の公開に合わせて続編の制作も発表されており、今後の展開にさらなる注目が集まっている。 その原作『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽へようこそ』(宝島社文庫)の著者である武田綾乃さんは、2016年春に大学を卒業し社会人となる、弱冠23歳の若手作家。瑞々しい感性と想像力にあふれる彼女がつづる物語は、どのようにして生まれたのか? 「ユーフォニアム」が生ま
文芸同志会(伊藤昭一主宰)★連絡所=本部・詩人回廊」北一郎(正会員担当)★ー★今、話題の純文学、ミステリーなどエンターテインメントから、同人誌・単行本のマイナー作品まで、現代文芸界の動向がわかるコーナー。 書き手はいるが読者がいない。これがアマチュア作家の現状で、なんとか読者の評がえられないか、あるいは作れないかというのは、現在と将来にわたる課題である。すでにコミックや大衆小説の創作には、骨格をコンピューターがつくるシステムが出来ている。大塚英志「キャラクター小説の作り方」などは、その思想が色濃く反映されている。書き方は違っても作り方は同じということだ。文学フリマでも700超えるグループがあるが、そこの希望は、批評して欲しいというのが一番多いはずだ。 そこで、コンピューターで読者評ができないか、ということになる。 小説ネット公開システムひとつに「インターネット文芸誌『クランチマガジン』」(
ノーベル文学賞を受賞した文豪、川端康成が学生のころに恋人に宛てた手紙が、神奈川県の自宅に保管されていたことが分かりました。この恋人との思い出は、初期の主な作品の題材になっていて、研究者は川端文学の原点を知る重要な資料として注目しています。 保管されていたのは大正10年、学生だった川端康成が文壇デビューした年に伊藤初代という女性に宛てた手紙1通と初代から川端が受け取った手紙10通で、川端が晩年まで暮らした神奈川県鎌倉市の自宅にありました。 初代は川端の7歳年下で初恋の人と言われ、川端が22歳のときに一度は結婚を誓い合った仲ですが、初代の側から婚約を破棄したことで2人の恋が終わり、その理由は今でも明らかになっていません。これらの初代との思い出は、「南方の火」や「篝火」といった川端の初期の作品の題材になったほか、映画化された作品「伊豆の踊子」にも影響を与えたとされています。今回見つかった川端の手
三毛招き @mikemaneki まあ、ディストピア小説で一番ヤバいというかマジでディストピア感があるのは「書いてる作者本人がディストピア小説だと思ってない」タイプだが。 2014-05-24 16:34:22 遠藤 @enco2001 最近読んだ小説だと、小説『千本桜』が作者にまったくディストピア感なさそうな上に表面的には華やかな貴族社会描いてて、月まで鉄路がしかれ、しかし壁の向こうには困窮した農民が溢れ、世界は大戦争の痛手から立ち直れず、治安は軍が支配し、学生を動員して学徒憲兵なる治安要員にしたて上げる世界。 2014-05-24 18:12:08 遠藤 @enco2001 設定上繋がってることになってる音楽劇千本桜と小説千本桜。前者は昭和初期の農村恐慌によく似た現状を無視し壁の中に篭って豪奢な生活を続ける政府・支配者層に憤った特殊部隊の佐官が親王担ぎ上げて革命試みるも結局逃げ腰の殿下
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