[演劇] 別役実『象』(深津篤史演出) 新国立劇場・小H (ポスターと舞台より。原爆症の男(大杉漣)と妻(神野三鈴)。おにぎりの食べ方にこだわるこのシーンは傑作。舞台全体に敷き詰められた何千枚もの古着は、原爆の死者たちの隠喩か、それとも生き残った者たちか。戯曲にはない演出だが、荒廃と滑稽さを醸し出している。) 『象』は1962年4月に早稲田の学生劇団「自由舞台」によって初演されている。早大在学中の別役実24歳の作品。原爆症に苦しむ被爆者を描いた劇が50年間まったく古びていない。まるで今日の我々自身がそこにいるかのように新鮮だ。私は別役作品は『マッチ売りの少女』しか見たことがないのだが、『象』はこの50年間に何度も再演されてきたという。演劇の力というものをあらためて感じさせる力作だ。 物語は、原爆症に苦しみ、やっと立てるくらいの男が病院のベッドで暮らしている。彼は、隣町にリヤカーで乗り付け、