「叢書パルマコン」(創元社)の一冊である。パルマコンは毒であると同時に薬でもある存在をさす言葉である。この本の著者は、「農学」という学問がそうであり、そのもとになっている「農業」そのものが、人類にとってはパルマコンなのだという認識に立つ。 農業が人類に絶大な福音をもたらしてきたことを、誰も否定しないだろう。農業の発達のおかげで、あなたも私も、この世界に生を受けることができたのだから。農業では自然過程に人間の側が合わせていかなければならないために、農業は人間と自然の間に調和を実現している、という幸福な考えまで生んだ。 しかし農業には別の一面もある。それは自然過程に人間の意志を介入させることによって自然を改造し、そこから利潤を得るための技術の体系でもある。この技術体系は剰余価値を発生させて、国家が生まれる基礎をつくり、利潤の追求に人間を走らせる資本主義という経済システムまで生み出してきた。農業