南木佳士「トラや」(文藝春秋)を読む。芥川賞作家であり医者でもある人がうつ病になり、奥さんや猫(トラ)に助けられ長い時間をかけて回復していく。トラは野良の子猫だったが南木家の飼い猫となる。そして15歳で急性腎不全にかかって亡くなるまでが描かれている。とても良いノンフィクションだ。しかし時々ドキッとするような記述がある。 むかし、週に一度は仕事仲間たちと呑みに行く店があり、その夜も二階のカウンターでソース焼そばをつまみにジンを呑んでいた。一階は食堂で、そこに院長が来ている、とマスターが教えてくれたから、降りていって、独りでラーメンを食べている院長の向かいに座った。そして、これだけ医者の数が増えてきたのだから、内科の医師の人事くらいは内科の責任医長の判断に任せればよいのではないか。いちいち院長の決裁をあおぐほどの大事ではないのではないか、と世間話のついでに持論を述べてみた。 七十歳をとうに過ぎ