探偵小説作家・江戸川乱歩登場。彼がその作品の大半を発表した1920年代は、東京の都市文化が成熟し、華開いた年代であった。大都市への予兆をはらんで刻々と変わる街の中で、人々はそれまで経験しなかった感覚を穫得していった。乱歩の視線を方法に、変貌してゆく東京を解読する。 筑摩書房 乱歩と東京 ─1920 都市の貌 / 松山 巖 著 例によって、章ごとの主題をみておこう。あわせて引用された乱歩の作品名を書いておいた。 1章 感覚の分化と変質 ・探偵の目 ・・・ 「D坂の殺人事件」。第1次大戦の好況によって地方生活者が都会に大量に流入した。それにより人間関係が希薄化した。 ・目と舌と鼻、そして指 ・・・ 「人間椅子」。希薄な人間関係は商店の陳列方法を変える。常連客を相手にする棚売りから、一見客を引き寄せる陳列方式に変わる。それは商店の「看板建築」の奇抜な建築法とか、消費者のウィンドウショッピングのよ