原田康子著 『挽歌』 松原 亮 『挽歌』は昭和31年12月、東都書房より出版される。著者「原田康子」という名はほとんど知られていなかった。しかし、爆発的な売れ行きをしめし72万部を売るというベストセラー作品になった。既成のものでない、また新しい女性作家を求めていた時に、まさに彗星のように現れた作家というべきではないだろうか。 ヒロイン兵藤怜子は数え22歳。15の時、左肘に菌が入り、その後遺症で、変形し、曲りにくく、力が入らないという障害をかかえる。それ以後学校も行かず、仕事もしていない。 家は代々資産家であったが、だいぶ縮小されてしまった。家も古くなった。 家族は、父、弟、ばあやの四人である。母親は子供のころになくしている。このことが、この作品に大きく影響している。ヒロインの活動範囲は、劇団みみずく座の美術担当であり、仲間のあつまるダフネという喫茶店である。 怜子が公園で、寝そべってタバコ