平成の終わりが近づいている。といっても、元号が変わるだけで、生活にドラスティックな変化が訪れるわけではない。が、それでも、平成の世、もっと言えば日本がたどってきた道のりに思いを馳せてしまう人は多いのではないか。受け継がれてきた行事や慣習も一つの節目だ。どんな時代が来ようと大切に守っていかねばならない、でも中にはなんかモヤモヤするものもある――もしかしたら、今こそがそうした「日本の伝統」をちょっと離れて考えてみるのに最適な時かもしれない。 本書『「日本の伝統」という幻想』は、昨年11月末に上梓された『「日本の伝統」の正体』に続く第二弾である。『「日本の伝統」の正体』は、日本にある伝統と呼ばれるものの多くが実は明治時代以降の発明であることを調べ分類した一冊で、発売後反響を呼んだ(詳しくは筆者のレビューと著者インタビューをお読みいただきたい)。伝統という言葉の持つ魔力を読み解かんとしたこの前作を
最近、毎週土曜日の夜9時から、NHKで「芙蓉の人」を放送していて、山岳物の好きな私は、これを毎回欠かさず見ています。 しかも、原作の作者はこれも私が愛してやまない、新田次郎さんであり、初版は1970年に出されました。主人公は「野中千代子」といい、これが「芙蓉の人」です。「芙蓉」は富士山のことでもあるわけですが、それにしても、なぜ富士のことを「芙蓉」と呼ぶのでしょうか。 調べてみると、はっきりしたことはわかりませんが、芙蓉には「美人」の意味もあるようで、このため、「美しい峰」と言う意味で使うようになったという説、また、芙蓉の花のあのぎざぎざした花弁が、富士山頂のギザギザに似ている、という説などがあるようです。 新田さんは、その著作に「白い花が好きだ」という随筆もあり、自らの作品に白い花の名を与えたかった、という意向はあったでしょう。白い芙蓉の花の清楚な姿はなるほど富士山にもよく映えます。 富
「止揚(アウフヘーベン)」という言葉について殊更考えたことがなかったな、という問題意識を持てただけでも、この3冊を読んだ価値はあったな、と思う今日このごろです。 問題解決の力としての知性 3冊とも同じ田坂広志という方の著作なのですが、入り口はこちらの「知性を磨く」という本でした。「企画力」、「使える弁証法」を読んでみると、「知性を磨く」という本は各論のサマリ的な位置づけにあるのでは、とも感じます。 知性を「答えの無い問いに対して、その問いを問い続ける能力」 知能を「答えの有る問いに対して早く正しい答えを見出す能力」 とした上で、世界に偏在する諸問題を解決するための力、つまり世界を変革するための力として、知性こそが重要な能力なのだという考えを元に、どうすれば知性を磨くことができるか?という問いに答えた本です。 知性を磨くポイントとして端的に以下の2つのポイントが挙げられています。 「答えの無
はじめに若手のUIデザイナーから「使いやすいアプリをデザインするために認知心理学を勉強したい。どんな本を読んだらいいですか?」と相談を受けたので、いくつか紹介してみます。ちょうど、大学入試センター試験(国語)で「デザイン」や「アフォーダンス」が取り上げられたこともあり、このタイミングで書いてみることにしました。 認知心理学の学問分野は広大ですし、僕は認知心理学者ではありませんので、あくまでも、1)デザイナー向けに、2)仕事に役に立つ、3)入門書、 という観点で選びました(前半の入門編)。 (僕自身は、多摩美術大学の大学院生の時に、須永剛司教授(現・東京藝大)の研究室で、インタフェース・デザインの実践研究をしながら、文献や論文、ゼミの輪読、学会や勉強会などを通じて、認知科学/認知心理学を学び、それがその後のインタラクション研究に続いていきます。) 後半の中級〜上級編には名前がよく出てくる有名
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第65回はマイケル・マンキンスとエリック・ガートンによる『TIME TALENT ENERGY』を紹介する。 資本があり余る時代の 競争力の源泉は何か この文章を読みながら、心の中で「そうそう」と頷いてしまう方は多いのではないか。 「現場の社員や中間管理職は、会社の手続きや規則、延々と終わらない会議、おびただしい数のメールに辟易している。 おまけに、組織の階層が多すぎて部門長には自分たちの声が直接届かないし、顧客の顔も見えないなど、不満が渦巻いている。そして決まって出てくるセリフが『これじゃ仕事にならない』」 『TIME TALENT ENERGY』第1章より 何を決めるのかもわからない不毛な会議に参加し、情報共有という名目で送られてくるメールの確認に時間を奪われ、日が暮れ始めた頃、ようやく価値を生む仕事に取り掛かる。い
時代環境が変われば、それに応じた適切な組織のカタチは変わります。 最近でいうと「ホラクラシー経営」を目にする機会が増えてきました(たとえばこういう連載)。同じような文脈で Teal Organization(ティール・オーガニゼーション)というのを少しずつ聞くようになったのですが、日本語で調べても出てこない…ので、とりあえず英語で調べてみました。 ※ 末尾のwebソースや書籍(Reinventing Organizations)を参照した上での意訳なので間違ってる可能性も大いにあります…。 ※ 2018/1/7追記:上記書籍の日本語訳が発売されます。 「ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」 【1】Teal Organization(ティールオーガニゼーション)とは1)そもそも”teal”ってなにかまずTealというのは色の名前です。青緑っぽいこんな色です。 これは、
本書のタイトルを見て、「これはまさに自分のための本ではないか!」と思い手に取られた読者の方も多いことだろう。なかなか減らない労働時間、息つく暇もない育児や介護、なくならないサービス残業、改善しないワーク・ライフ・バランス……。メディアなどでしばしば取り上げられるこれらの問題が明示しているように、日本ほど「時間がない」と感じる人々がたくさん暮らしている国は、他にないかもしれない。 しかし、『いつも「時間がない」あなたに』という字面から、さぞや有効な時間活用術が書かれているに違いない、と期待に胸をふくらませながら本書を読み進めるのはおすすめしない。副題の「欠乏の行動経済学」が表現しているように、本書はあくまでも「欠乏」に焦点を当てた学術的内容を紹介した入門書である(実際に、原著のタイトルは欠乏を意味する Scarcity で、副題を含めて特に「時間」を強調してはいない)。時間の他にも、モノやお
2007年08月02日17:00 カテゴリ書評/画評/品評Art 書評 - あしたの発想学 手で培った言葉の、力強さ。 あしたの発想学 岡野雅行 本書「あしたの発想学」は、今や日本一有名な町工場の親父である岡野雅行の独白録。すでに多くの著書があるが、製品とは異なり、著書から聞こえる岡野節は養老孟司ばりの同工異曲で、どれか一冊きちんと読めば事足りる。しかし、どの一冊でもいいから、一冊は読んでおきたい。それであれば、一番安い本書が一番おすすめ、ということになる。 本書、というより岡野節は、 「答えのない世界」を生き抜く鉄則:ITpro 「答えを教えて欲しい、そうすればうまくやってのけるのに」。進んでいる他国や他社から熱心に学ぶ姿勢は、かつて日本人の長所であったが、現在は短所になっている。「答えのない世界」に今、我々はいるからだ。ではどうすべきか。 の答えともなっている。その「とりあえずの結論」
その昔。今の20歳以下の人たちには理解できないかもしれないけれど、人はおカネを払って楽曲を買っていた。しかもCDというメディアに入ったアルバムというものを買っていた。アルバムの中には12曲くらい入っていて、2枚組なんていうものもあった。その前にはレコードなんていうものもあったし、私が生まれて初めて買ったのはユーミンのLPだったけど、そんなことはどうでもいい。重要なのは、そう遠くない昔、音楽は有料だったということだ。 いつから音楽は無料になったんだろう? おそらくナップスター以降と答える人がほとんどかもしれない。実際、レコード業界を破壊した犯人としてもっとも名前があがるのは、ナップスターを立ち上げたショーン・ファニングとショーン・パーカーだ。 でも、ナップスターが立ち上がる前から、音楽ファイルはインターネットのどこかにあった。ナッフ
2010年01月26日 14:54 カテゴリ人と組織今週の一冊 「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト を読んで Posted by fukuidayo No Comments No Trackbacks Tweet 「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書) 著者:酒井穣 販売元:光文社 発売日:2010-01-16 おすすめ度: クチコミを見る Twitter上で「良書」と紹介されてたいので、読んでみることにした。 僕は人と組織の問題にとても興味を持っているし、そういった仕事を長い間してきたのだけれど、人材育成に関する本の90%(感覚値)は読むに値しない本だと思っている。何故なら、個人の価値観を押し付けるものであったり、特定の環境でしか参考にならない主張が多いからだ。 そういった書籍に比べると、「日本で最も人材を育成する会社」のテキストは良く考えられて作られている。
ハコフグ帽子と白衣のいでたちに、甲高い声と大きなジェスチャーで魚の素晴らしさを伝え続けるさかなクンの自叙伝だ。絶滅したと思われていたクニマス発見の偉業は天皇陛下にも言及され、東京海洋大学の客員准教授を務めるまでになったさかなクンの人生が、さかなクンの手によるかわいい魚のイラストとともに語られる。本文の漢字にはルビがついており、小さな子供でも楽しみながら読み通すことができる。もちろん、大人も飽きさせない。本書には、本当に何かを好きになることの苦しさ、そして、それ以上の楽しさが凝縮されているのだ。 どんな困難を前にしても、さかなクンは夢中であることをやめない。魚との毎日をとことん楽しむさかなクンの生き方に触れると、この世界が喜びに満ちたものに思えてくる。何かを好きだった熱い気持ち、最後まで全力を尽くせずに投げ出したもの、さかなクンのように生きられなかった自分が省みられて、心が揺さぶられる。ペー
ロビンソン・クルーソーのモデル、スコットランドの船乗りアレクサンダー・セルカーク。南太平洋の無人島に漂着した彼は、4年4か月を1人きりで生き延びた。彼が漂着した島はチリにあり、現在ではロビンソン・クルーソー島と名付けられている。著者・高橋大輔氏は、広告代理店の職を辞してセルカーク住居跡の発掘プロジェクトを推し進め、13年かけて遂にそれを発見した。そんな高橋氏が日本のロビンソンに興味を持つのは必然だったのかもしれない。 伊豆諸島の南端、小笠原諸島の手前に鳥島という無人島がある。直径2.7キロメートルほどの火山島で、面積は約4.6平方キロメートル。周囲を断崖絶壁に囲まれた小さな島だ。開拓の手が入ったこともあったが今では昭和に設置された気象観測所の廃墟が残るだけの島である。アホウドリの繁殖地として有名で、島全体が天然記念物(天然保護区域)として指定され、一般人の上陸が禁じられている。そんな島だ。
「どうしてこんな商品が、こんなCMが、こんなデザインが世に出てしまったのだろう?」と、私は思うことがある。おそらく、読者の皆さんにもそうした経験はあるのではないだろうか。だが、本書『レッド・チーム思考 組織の中に「最後の反対者」を飼う』を読んで、ようやく腑に落ちた。 私たちは誰しも、「毎日を過ごす組織の文化に縛られ、上司や職場の好みに自分を合わせがち」だし、「長年なにかに慣らされてしまうと物事を客観的に見られなくなってしまう」のだ。それは何も、私たちが「無能」だからではない。人間の思考と行動は、常にそうしたバイアスに縛られているからだ。 自分の信念を裏付ける事実にばかり目がいくトップの「追認バイアス」。 そのトップの意向にそうことが自分の昇進になると考える「組織バイアス」。 この2つのバイアスがあるために、組織は、外部から見るととんでもない決定をし、それを執行してしまう。 では、それを防ぐ
繰り返し読める本10冊を挙げてみます このブログを運営するにあたってというのもあるんですが、ぼくはだいたい年間で100冊くらい本を読みます。 高校生のころからかなり真面目に本を読み始めたのですが、印象に残ったり、大きく考え方や行動に影響を与えたり、繰り返し読める本というのは限られています。 今回は、これまで読んできた中で、特に面白くて繰り返し読める歴史関連本10冊を紹介したいと思います。 1. アーロン収容所 会田雄次 アーロン収容所 (中公文庫) posted with カエレバ 会田 雄次 中央公論社 1973-11-10 Amazonで購入 楽天市場で購入 第二次世界大戦後、現在のミャンマーで英軍の捕虜になった筆者の、捕虜中の生活が中心に語られた伝記。 日本軍捕虜の実情を知る上での貴重な証言であると同時に、 イギリス人、インド人、ミャンマー人、ネパール・グルカ兵、そして日本人の行動様
reason.com 今回紹介するのは、心理学者で疑似科学批判者で無神論者のマイケル・シャーマー(Michael Shermer)が Reason.com というサイトに掲載した「Are We Becoming Morally Smarter?」という記事。 シャーマーは昨年に『 The Moral Arc: How Science and Reason Lead Humanity toward Truth, Justice, and Freedom (道徳の弧:科学と理性はいかにして私たちを真実と正義と自由に導くか)』という本を出版している*1。副題の通り、人々が科学的・理性的な思考方法を身に付けるにつれて、他人に配慮した道徳的な思考もするようになったり、正義などの抽象的な概念を理解したり、宗教の権威を否定したり、民主主義などが普及したりして、暴力が減少してより多くの人々に権利や自由が認
この地球上で、国家のリーダーとしての視点から”今”を語れる人というのは195人ーーすなわち世界の国の数と等しいだけの人数が、少なくとも存在する。それでも、その言説の多くは現実空間のものに限定されてしまうであろう。 これを仮想空間に置き換えて考えてみると、どうなるだろうか。国家規模の広い視点から”今”を語れる人というのは、世界に数人しか存在しないのかもしれない。いわゆるApple、Google、Facebook、Amazonといった超国籍企業のトップたちである。 その中の一つ、Google社のCEOを長らく務め、現在会長の座に収まっているのが、本書の著者の一人、エリック・シュミットである。まるでSFの題材のような世界を、現実的なビジネスと捉えて分け入っていくGoogle社。その会長が予測する未来となると、否が応でも期待は高まる。 未来予測である以上、どのような歴史観に立脚しているのかというこ
一言でまとめると、心とは、自然淘汰を経て設計されたニューラル・コンピューターになる。心とは、複数の演算器官からなる系であり、この系統は、狩猟採集によって生きていたわれわれの先祖が、日々の問題を解決しながら進化する過程で、自然淘汰によってつくり出されてきたという。 この枠組みを持って思考と感情の仕組みを、情報と演算活動で説明しようとする。ヒトの心は脳の産物であり、思考は脳の演算処理の一つだというのだ。情報を処理する上で、複数のモジュールがそれぞれ特定の目的をもって設計されており、外界との相互作用を受け持つという。 そして、これだけ精妙なモジュール性が生まれたのは、進化的適応によるという。外界の環境を把握し、どれほど適応できるかが、種にとって生存と繁栄の鍵を握る。食物の場所を把握し、天敵を察知し、ライバルを出し抜き、配偶個体と出会うといった問題を効率よく処理できる個体が、結果として生き残り、子
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