東京タワーが完成したのは、昭和三十三年のこと。333メートルというその高さは、完成当時、パリのエッフェル塔を抜いて世界一。高度成長期のニッポンは、上を、そして先を目指して走り続けた。あのころ、男たちは、よく働き、よく飲んだ。男たちが憧れたのは、オールドパー。倒れることなく斜めに立つそのボトルは、「右肩上がり」のウイスキーという夢をも内包した。 時代に選ばれた男たちは、夜ごと銀座や赤坂に集った。国の行く道を担う政治家、経済の復興を先導した経済人、そして、ニッポンの文化を新たなステージに引き上げたあまたの文人たち。彼らの多くは、英国生まれのウイスキーを「水割り」という日本流の飲み方で嗜んだ。ウイスキーが1に水が2。今に受け継がれる、おいしさの黄金律である。 文壇バーで、鎌倉の書斎で、文人たちの創作活動の傍らにはこのウイスキーがあった。ある者は酒と食のエッセーを書き、ある者は英国のミステリ文学を