この写真が掲載されたのは、英語版1936(昭和11)年4月号の特集「ニッポン人情めぐり旅」。ジョン・パトリックという米国人青年が貧乏旅行で人々の温かさに触れながら、日本各地を旅して書いた紀行だ。 船で横浜に着いたパトリックは、そこから見えた富士山の姿に魅せられ、明るいグレーのスーツといういでたちで、登山の準備もせずに御殿場へとやって来た。夜に登り始め、大きな荷物を背負った日本人に次々に追い抜かれながら、ようやく火口の縁の鳥居にたどり着いたのは夜明け直前。眼下の東京や横浜の明かりがだんだん消え、東の空が黄金色に輝き始めると、噴煙を上げる伊豆大島のシルエットが浮かび上がった。 美しい風景とは対照的に、山頂は大勢の巡礼者でごった返し、捨てられた弁当箱やわらじ、紙くずが散乱していたという。 写真:HERBERT G. PONTING