滋賀県に百五年の歴史を誇る全国でもまれな私設図書館「江北(こほく)図書館」がある。今年二月、この図書館について取材するうち、作家の阿刀田高(あとうだたかし)さん(77)に電話をかけた。日本ペンクラブの会長だった五年前、創立百周年の式典に招かれて講演をしているからだ。 「あそこはね、建物は古いですが、日本の図書館運動のお手本のような、素晴らしい図書館ですよ。最近の図書館は施設は立派ですけれど、私の持論は『図書館はまず人、次に本、建物は三番目』ですから」 突然の電話での取材にもかかわらず、受話器の向こうから快活な声が響く。書きとめながら、この人は本当に図書館が好きなのだなあとあらためて実感する。何といっても早稲田大を卒業後、国立国会図書館に十年あまりも司書として勤めた経歴の持ち主だ。