山口昌男の10年ほど前の札幌大学での講義録「学問の春」(平凡社新書)を読んでいるがこれが面白い。タイトルが抽象的だが、実際は「文化学総論」(ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』を読む)の講義録をもとにした「比較文化学講義」である、と冒頭にある。 読み始めてすぐ、気になるところがあった。講義の趣旨に関係ないのだが。山口はインドネシアのブル島へ調査に行く。ところがインドネシアに行くと、ブル島には共産党員の収容所があるから外国人は入れないだろうと言われる。 1965年以来の共産党撲滅を目的とした軍事行動によって、インドネシア独立運動の闘士だったスカルノ大統領は辞めさせられて病気になって死んでしまった。1968年にスハルト政権という軍事政権が成立したけれど、インドネシア全域はその後、軍人の利権の対象になってしまった。退役軍人を含めて、大将、中将、そういう人たちがこの島の漁業権や森林伐採権を自分たちで握る