長崎県の真ん中に、ぽっかりと空いた穴のように広がる大村湾。そのほとりに、JR大村線の千綿駅(ちわたえき、東彼杵町〈ひがしそのぎちょう〉)がある。湖のような凪(なぎ)の海を望むホームに、趣のある木造駅舎。そして駅に親しみをもつ地元の人々。足を運ぶたび、ただ美しいだけではない、心温まる情景に出会えた。 海が迫るホーム、細部までレトロな駅舎 千綿駅を最初に訪れたのは、2016年2月。諫早(いさはや)方面から佐世保行きの列車に乗り込み、北を目指す。長崎空港にも近い大村の市街地を抜けると、左側の車窓が一面の海に変わった。大村湾だ。湾口わずか330メートルしかない閉鎖的な内海で、波も穏やか。そのおかげで線路が海面のすぐ近くを通っており、車内にいると、まるで海の上を走っているような不思議な感覚に包まれる。 そのまま右へ左へ、海岸線をなぞること5分。列車は海に寄り添ったまま、千綿駅にゆっくりと滑り込んだ。
神奈川県を代表する観光地のひとつ、湘南の江の島。その近くにも、海の見える駅がいくつかある。中でもホームからの眺望に優れているのが、江ノ島電鉄の鎌倉高校前駅(鎌倉市)と、湘南モノレールの目白山下駅(藤沢市)だ。どちらも相模湾を望める無人駅で、直線距離でも1キロほどしか離れていない。しかし、実際に訪れてみると、それぞれ趣のまったく異なる情景があった。(訪問:2022年1月) フォトジェニックな光景に人が集う、鎌倉高校前駅 最初に向かったのは「江ノ電」こと江ノ島電鉄の鎌倉高校前駅。江ノ島電鉄は藤沢駅と鎌倉駅を結ぶ全長10キロの路線で、鎌倉高校前駅はそのほぼ中間地点にある。 休日の昼、藤沢駅から江ノ電のずんぐりとした小さな車両に乗り込む。早々に観光客や地元の方で席が埋まった。 江ノ電は乗っているだけでも十分に楽しい。くねくねと住宅の間を縫って進んでいったかと思えば、道路の真ん中を路面電車のように走
70年代から日本のミュージック・シーンを牽引(けんいん)し続けてきた吉田拓郎さん。昨日6月29日に音楽活動の集大成としてラストアルバムを発表されました。タイトルは「ah-面白かった」。これまでの人生を振り返り、言葉と音と、そして愛でつむがれた拓郎さんらしい素敵な楽曲たちが収録されています。こちらは夏にアナログレコードも発表されるのですが、実はそのジャケットのアートディレクション、そして衣装デザインを私が担当させていただきました。 風に揺れるワンピースをデザイン(衣装:篠原ともえ)拓郎さんと出会ったのは私が17歳の時。フジテレビ「LOVE LOVE あいしてる」での共演がきっかけでした。番組終了後もお付き合いは続き、今回この大切なプロジェクトの一員として、お声をかけてくださいました。 初めてお会いした時は、元気すぎる私と目を合わすことさえしなかった拓郎さん。でもなぜか、私は拓郎さんととても仲
列車がとまるのは、真夏のたった2日だけ。そんな「日本一営業日の短いJR駅」が、香川県三豊市の瀬戸内海沿いにある。JR予讃線の津島ノ宮駅だ。駅名の通り、近くにある津嶋神社の夏季例大祭が行われる日だけ営業する。大勢の乗客とともに降り立つと、辺りはお祭りムード。ホームの端から顔をのぞかす海、懐かしい屋台、夜の花火と相まって、たった一日でひと夏を満喫した気分になった。 8月4日と5日だけ営業する駅 津島ノ宮駅が営業するのは、毎年8月4日と5日。この2日間は、すぐ近くにある津嶋神社の夏季例大祭の日だ。2020年と2021年は新型コロナウイルスの影響で祭りも中止。合わせて津島ノ宮駅の営業も見送られていたが、2022年には3年ぶりにお祭りを実施、駅も営業する予定だ。 筆者が訪れたのは、2018年8月4日で、夏季例大祭の1日目。高松駅から乗り込んだ快速列車の車内は、肩が触れ合うほどに混み合っていた。乗客の
海の見える駅は日本全国にあまたある。そして富士山が見える駅も数多い。しかしその両方を同時に見られる駅は、実はとても少ない。そんな貴重な駅を千葉県富津市の房総半島で見つけた。JR内房線の竹岡駅と浜金谷(はまかなや)駅だ。しかし、富士山まで見えるかどうかは運次第。2020年3月、初春の澄み渡った空のおかげで、思いがけず“海と富士山”を存分に味わうことになった。 房総で屈指の眺望を誇る、竹岡駅 内房線の駅を巡る旅に出たこの日、最初に訪れたのは竹岡駅。標高およそ20メートルの高台にあり、房総でも屈指の眺望を誇る無人駅だ。背後に森を抱え、屋根もない二つの長いホームが静かに向かい合っている。 正午前、快晴の空のもとホームに立つと、開けた海のほうへ自然と目が向いた。眼下に広がったのは、深く鮮やかな青色の東京湾。対比するように、強い西風にあおられた白波がくっきりと浮き立つ。その先には、対岸にある神奈川県の
神戸の繁華街・三宮から、山陽電鉄の普通列車で西におよそ30分。降りたらすぐ、眼下に瀬戸内海の大パノラマを望める駅がある。神戸市垂水区にある「滝の茶屋駅」だ。たぐいまれな眺望を誇りながらも、駅の中や駅前に目を向ければ、そこは平然と人々の行き交う郊外の日常。背景の美しい海と、飾らない日常風景とのギャップが、どこを切り取っても絵になる世界を生み出していた。(訪問:2017年5月) 紀伊半島から淡路島まで望む大パノラマ 訪れたのは、2017年5月。以前本連載で取り上げたJR神戸線(東海道線・山陽線)の須磨駅を訪れた後、山陽電鉄に乗り換えて滝の茶屋駅へと向かった。 途中の須磨浦公園駅を過ぎると、窓の外が一気にまぶしくなる。目と鼻の先には、一面の瀬戸内海。海との間に、並行するJR神戸線と国道2号を見下ろしながら、山陽電鉄は山側の少し高いところをひた走る。東京近郊ではなかなか味わえない開放的な車窓に見と
有明海の西側に、ぽっかりとくぼんだ諫早(いさはや)湾。その両岸には、まるで向かい合うように二つの海の見える駅がある。島原鉄道の古部(こべ)駅と、JR長崎線の小長井駅だ。お互いの距離は、直線で結んでわずか8キロ 。近くにある二つの駅だが、それぞれ違った、海と山の織りなす情景に出会えた。(訪問:2016年2月) 満潮の古部駅から、優美な稜線の多良岳を望む 2016年2月のある早朝。熊本県の長洲港から、有明海を渡る「有明フェリー」に乗り込んだ。行き先は、諫早湾の湾口にある長崎県の多比良(たいら)港。そこから諫早湾をぐるりと半周しながら、二つの駅を巡ろうと考えた。 多比良港そばの多比良駅(旧・多比良町駅)から島原鉄道へと乗り換え、諫早方面へ。車窓にときおり現れる諫早湾を横目に、15分ほどで一つ目の目的地、古部駅に到着した。古部駅は、諫早湾の南岸にある小さな無人駅だ。 午前10時、ホームにひとり降り
ぽかぽかとした日差しの心地よい、3月下旬。1両編成のディーゼルカーから土佐白浜駅(高知県黒潮町)のホームに降り立つと、正面には視界いっぱいの海が広がった。太平洋へと続く土佐湾だ。辺りを包むのは、波の音と海の風。空は快晴。この駅で待っていたのは、あまりにすがすがしい時間だった。(訪問:2013年3月) さえぎるものがないというぜいたく 高知県の南西部を土佐湾に沿って走る、土佐くろしお鉄道中村線。海の見える駅も数多い路線だが、中でもここ土佐白浜駅は抜群の眺望を誇る。 土佐白浜駅から望む土佐湾。島一つ見えず、水平線がひたすらに続く。内海では味わえない開放感だはるか遠くには、空と海をきれいに分かつまっすぐな水平線。一方、波打ち際ではごつごつした岩肌に白波が勢いよく打ち付ける。駅と海との間には国道や集落があるものの、標高およそ20メートルのホームにいれば、視界は良好。屋根はなく、フェンスも高すぎない
平日の朝、札幌駅から小樽行きの列車に飛び乗った。職場や学校へ急ぐ人々と一緒に揺られて約30分。車窓が札幌近郊の街らしい景色から一変、いきなり視界いっぱいの海へと変わった。日本海へと続く石狩湾だ。列車はしばらく海岸線にへばりつくように快走すると、真っ白な雪に覆われたホームに滑り込んだ。 映画にも登場した雪のホーム ここは小樽市にある朝里(あさり)駅。石狩湾を望む無人駅だ。降り立ったのは、2013年3月初旬。最低気温は氷点下で、初春と呼ぶにもまだまだ寒い。前日まで雪が降り続いていたこともあり、足元は一面まっ白。ホームの脇にも人の背丈ほどの雪が残っていた。 雪に覆われた朝里駅のホーム。両脇にも雪が塀のように積まれている目と鼻の先には海があるはずなのに、雪の塀が視界をさえぎり、その場で背伸びをしても海が見えない。 なんとかして海の見えるポイントを見つけるべく、長くてまっすぐなホームを端に向かって歩
日本全国、2万キロ以上におよぶJR全線の中で最南端を走るのが、鹿児島県の指宿(いぶすき)枕崎線だ。薩摩半島の東岸から南岸をぐるりと取り囲むような線形で、車窓からもしばしば海が見える。今回訪れたのは、その終点・枕崎駅の手前にある二つの無人駅。南の果てで出会った夕暮れの海は、淡く、遠く、幻想的だった。 薩摩板敷駅で出会ったペールブルーの世界 2両編成の列車を降りるやいなや、西日が横顔を照らした。2017年4月下旬、時刻は午後6時過ぎ。東京ではもうすぐ日没を迎えようという頃だが、鹿児島の空はまだ明るい。 降り立ったのは、薩摩板敷(さつまいたしき)駅。九州新幹線の終点・鹿児島中央駅から、さらに普通列車で南に進んで2時間半の場所にある。駅舎もなく、小さな上屋と駅名標がぽつんとたたずむ、ごく小さな駅だ。 畑に囲まれた薩摩板敷駅。隣はもう九州最南端の終着駅、枕崎駅だ列車が去ると、うっすらと伸びる水平線が
みなさん、最近ペンや筆を使って文字って書いてらっしゃいますか? パソコンやスマホが普及し、ちょっとしたメモであってもタイピングしてしまうことが多いこのごろ。このコラムでも度々ご覧いただいているように、私は比較的普段からスケッチやメモなどは、使い慣れたお気に入りのペンで書き留めているのですが、今回は文字にまつわる私の最近のアクティビティーについてご紹介したいと思います。 版画やワークショップなど、これだ!と興味を持ったものには、自分でもびっくりするほどの瞬発力で飛びつく私。表現の幅を広げたいという想(おも)いはもちろんですが、単純に手を動かすことが好きなんだと思います。そして、その体験から学び得たものが、自身のものづくりにつながり、モチベーションにもなっていることは言うまでもありません。そんな私の好奇心を今回新たに刺激したもの、それが「カリグラフィー」でした。 カリグラフィーとは、西洋や中東
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