【解説】いま、ポパーを読む意味とは何か 黒田東彦 カール・ライムント・ポパーは、一九〇二年にオーストリアのウィーンでユダヤ人の家庭に生まれ、ナチス政権の成立とともにニュージーランドに逃れたのち、戦後は英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授を長く務め、一九九四年に英国で亡くなった哲学者である。広く、科学哲学、社会哲学、政治哲学の分野で活躍し、とくに、英米の分析的な哲学に大きな影響を与えた。戦前・戦中には、ファシズムなどの社会哲学に対する鋭い批判により、また、戦後の冷戦期には、マルクス主義哲学に対する本源的な批判により、一般社会にもインパクトがあったと思われる。 しかしながら、近年、ポパーの書が読まれることは少なくなり、その影響力は大きく低下したように見える。その最大の理由は、一九九一年にソ連が崩壊し、主要な論敵だったマルクス主義哲学がほとんど壊滅してしまったことにある。本書「歴史