2年8カ月ぶりに日本へ一時帰国し、早稲田大学での研究会に出席している最中に、安倍晋三元首相が襲撃されるという衝撃的なニュース速報が入った。その数時間後、偶然にも事件に関係する論文を筆者は発表することになった。 筆者が新しいデータ(後述)に基づいて再検証した理論は、ラリー・ザ・フラッグ効果(rally ‘round the flag effect、苦境にはせ参じる、の意味)と呼ばれるものだ。1970年にJohn Mueller氏が提唱したこの理論は、戦争やテロ攻撃などの国難時に大統領(あるいは首相)や政権党に対する支持が高まるというもので、多くの政治学者によって実証的な研究が蓄積されてきている。 では、今回の襲撃事件は選挙結果に影響を及ぼしたのであろうか。本稿では、この問いに対して、データを活用した現代政治学の知見を基に考察したい。また、事件に関連した報道に関しても、実験政治学の先行研究を基