1960年代、高度経済成長期のさなかで“行き過ぎた資本主義”に警鐘を鳴らしたのが経済学者の宇沢弘文だ。ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツを指導したことや、1991年には当時のローマ法王ヨハネ・パウロ二世より依頼を受け、回勅のアドバイザーとしてバチカン市国に赴いたことでも知られる。環境税、とくに格差是正を目指した比例型炭素税の導入をいちはやく説いたのも宇沢だった。 宇沢が提唱したのが「社会的共通資本」という考え。人々の暮らしにおける必需品やケアの分配を市場競争に委ねるのではなく、それらが共同体に平等に行き渡るような“人間・環境中心型”のシステムを構築すべきだと彼は訴え続けた。 経済成長こそが正義だと見なされた当時、宇沢が感じていた違和感とは何だったのか。宇沢の長女、占部まりが解き明かす──。 占部まり 内科医・宇沢国際学館代表取締役。日本メメントモリ協会代表理事。日本医師会国